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コーナーの向こうに ラップタイム(6) - YRS Mail Magazine No.104より再掲載 -

ラップタイム ( 第6話 )

アメリカのいろいろなサーキットを走ってきたが、ほとんどの場合コース図というものは役に立たない。ヘアピンのあとのコーナーがどっちに曲がっているかはわかるが、その実体までは走ってみるまでわからない。

日本の場合だとコース図があればある程度走りを予測できる。つまりコーナーが単純なのだ。そこでは走る工夫よりも教科書通りのテクニックが求められる。

アメリカのサーキットに要求されるものは、高い学習能力と創意工夫だ。頭の柔軟性と機知に富んだ対応だ。

間違いなくアップダウンのある、平面図からは計り知れないコーナーを克服した時、その達成感は桁外れに大きいものとなる。

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登りながら左に回りこむ5コーナー。ヘアピン。実にいやらしいコーナーだ。日本のサーキットのようにカントなど考えて作られていないから、路面は登るに従って逆バンク気味になる。

第一、アプローチが登っているのがいやらしい。ヘアピンのあとに直線がなくても、少なくともヘアピンよりは通過速度の高い直線かコーナーがある。サーキット走行の基本は到達速度の高い地点、例えばストレートエンドの速度を可能な限り上げることだ。トラクションレースであるロードレースの鉄則だ。

ところが、下りながらの右コーナーの直後に現れるヘアピン。路面は一瞬フラットになりすぐに登りはじめる。4速で下ってきてギアは2つも落とさなければならない。もちろんけっこうなブレーキングも必要だ。

ところが、こうしたコーナーを理想的に抜けることほど難しいことはない。なぜか?

ダウンシフトはまあいいとして、減速しすぎると登り始めた路面に思いのほか車速が落ちる。すなわり、コーナリングの初速が遅くなるということだ。

「ンナロー!」とオーバースピードで入っていくと、前に荷重を残してターンインは成功しても、「勢い」が残って折から逆バンク気味のコーナーを回っているうちにアウトにはらむ。「ナンジャー」とステアリングを切り足せば、即失速。スムースにできるだけステアリングを戻しながら脱出しようとする試みは無残に打ち砕かれる。

だから。この手のコーナーは頑張らないことだ。常に「まあまあ」だったら「最善」と自分に言い聞かせる。コーナーの進入でクルマと格闘するなんてもっての他だ。勝負はコーナーからの脱出速度なのだから。

ヘアピンを回っていてもコースの先は見えない。途切れた路面と空が目に入る。少しだけ待つと、クルマが浮いた感じになる。そう。ヘアピンを過ぎると路面は一旦下る。なだらかに下って6コーナーへの中間でまたゆるりとのぼりはじめる。

その上、レイアウトではまっすぐの「道」がわずかに湾曲している。と言っても、どこを通ろうと6コーナーのブレーキング手前の到達速度はヘアピンの脱出速度にほとんどかかっているし、4速全開にはなるものの裏のストレートほどの緊張は強いられないから、しばしの休憩にはなる。

2速で入るか3速で入るか迷うのが6コーナー。手前のゆるりとした登りがさらにおだやかになるところに6コーナーへのブレーキングポイントがある。コーナーにはカントがついているが、スピードコントロールを間違えると「ファーストインコースアウト」になるコーナーだ。

決め手は6と7の間のショートシュート。7コーナーはこのコースで最も大事なコーナー。2速のコーナーには違いない。では、その7コーナーへの準備をどうするかが問題で、ブリッジ下でメイッパイの速度まで到達するにはその準備こそすべてなのだ。

しかも7コーナーも若干では在るが登っている。クリッピングポイントを過ぎるとフラットになる意地悪なコーナーだ。

6コーナーを高い速度でクルマをねじ伏せて入ってきてしまうと、7コーナー手前のブレーキング量が増える。と言うことはクルマの挙動変化は大きくなるし、ブレーキング終了時の車速のコントロールも難しくなる。なんせ、7コーナーだけ速く走っても意味がない。最終的には7コーナーの立ち上がり、厳密に言えば左右のGが消えた地点でいかに車速を上げておくか、そして、いかに駆動輪にトラクションがかかっているかが「ここの課題」だ。

7コーナーのアウトにはけっこう高い縁石がある。縁石といってもFIAが定めるような見るからに縁石といった感じの「乗るなら乗ってもいいですヨ」というシロモノではなく、「乗ったらどうなるかわからないけど、乗りたいならどうぞ!」といったコースの付け足しのような縁石だ。と言っても高さはある。

いかなる場合も、縁石には乗らないで走ることにしている。乗れば乗った車輪が「外力」で動くことになり、その結果起きる挙動を予測しなければならない。場合によっては予測と異なる挙動を示すこともあるはずだ。なにしろ、毎周全く同じにコーナリングしているわけではあるまい。第一、縁石に乗った時のことを考えることは余計なことだし、考えるのもメンドクサイ。

ただ、コースのエッジがわかりやすいからラインをさがす助けにはなる。まだドリフトアウトする速さではないが、おそらく、速くなればなるほど目安にはなるはずだ。

7コーナーを立ち上がってアウトに寄る。2速で引っぱって3速。まだわずかな登り。「ったく、なんてコースだ。運転手の意識を試しているようなコースじゃないか。」3速で7、500まで引っぱる頃やっと路面はフラットに。だから、「やっぱりキモは7コーナーだ。」4速に入れて8コーナーを目指す。

「ウフッ。でも、それだけに『速く走ろうとするドライバー』がいてくれたらメッケものだゼ!」

第7話に続く

※ 解説用コースレイアウトにあるシケイン(8コーナー)はスポーツカーレースの大きな事故をきっかけに作られたもので、全米選手権の時にはなかった。

≪資料≫

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