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コーナーの向こうに WIR (2) - YRS Mail Magazine No.69より再掲載 -

ウイロースプリングスレースウエイ ( 第2話 )

 

第1話でコーナーの呼び方が間違っているところがありました。お詫びして訂正します。
正確を期するためウイロースプリングスのサイトをご覧下さい。

 

WIRは高速コース。基本的にコースが高速になればなるほど、またコーナーが高速になればなるほどクルマのバランスを崩さないように走るのが安全に速く走るコツ。

教科書にも書いてある「サーキットを速く走るためストレートエンドの到達速度を重視した走り方」を実践するにはうってつけのコース。

WIRには直線、あるいは直線と呼べる区間が4つ。長いホームストレート。1コーナーと2コーナーの間(便宜的にサブストレートAと略)。2コーナーから3コーナーの間(便宜的にサブストレートBと略)。6コーナーから最終コーナーへと続く5速全開の長〜いコーナーの4ヶ所。

最初にWIRを走ったのはレースウィークエンドの午前中に行われたプラクティス。午後には予選が。とにかくギリギリの予算でレース活動をしていたから、事前の練習は行わない方針(できなかったのが実状だけど)で、ぶっつけ本番。

余談になるが、アメリカでは日本で言うところのスポーツ走行での練習はほとんど見かけない。速く走りたい人、速くなりたい人は練習走行に割ける予算があったらレースに出場する。邦貨にして2万円で1日フルに走れる環境はあるのだが、「何かに挑戦してみたい」と思った人はドンドン実戦に参加する。それがアメリカ流。

とにかく、限られた時間でそこそこのタイムを出すのが目的だから、クルマの性能を最も引き出しやすい「直線重視」の走り方に重点を置く。

具体的には、目安として先に述べた4つの区間の最終速度を回転計で読む。次に、回転を読んだ地点での回転を少しでも上げる方法を考える。

# 都合2年GT5仕様のKP61でレースに参加。最終的にホームストレートエンドで5速7600回転。2コーナー手前で4速7400回転。3コーナー

手前で4速7500回転。最終コーナー手前で5速7800回転を確認。この時のラップタイムが1分34秒後半。1周2.5マイルのコースで平均時速153Kmの世界。

SCCAのレースはプラクティス30分。予選30分。連続して走っても意味がないので、4周して中の3周を計測。ピットインして頭を冷やし、次に何をすべきかを決め、またコースに戻るという流れをくりかえす。

WIRのように直線区間の長いコースで重要なのはコーナーの脱出速度。これは直接ストレートエンドの速度に影響するからおろそかにできない。

コースにも慣れペースを上げようとするが、なかなかラップタイムが劇的には縮まらない。クリッピングポイントからコーナーの出口に向けての加速はスムーズだしアウトにマージンを残せる走りだが、今いちスピードの乗りが悪いように感じる。またピットに戻って作戦の練り直し。

閑話休題。

巷では、タイムが縮まらない理由として、
- 突っ込みが甘い
- スロットルを開けるのが遅い
などとまことしやかに言われているけど、幸いにもボクには無関係。なにしろ予算が限られている分、ブレーキパッドもタイヤも長持ちさせなければばらばい。酷使するのは御法度。

もっと突っ込みたくても「財布の中身」がそうさせてくれないし、スライドさせようものなら「自己嫌悪」に陥ってしまう。

しかし、そこはそれ。知識の蓄積を生かし「頑張らなくても速くなる方法」を探す。

で、コーナーの脱出速度が重要ならばそのコーナーの通加速度も重要なはず。通過速度を高く維持できればその分だけ脱出速度が上がるのは明白。と考えたわけだ。

通加速度を決める要因は?
  進入速度とコーナリング速度を決めるステアリングとスロットルワーク。

進入速度を決める要因は?
  主にブレーキングを終了した時点での車速。

となれば話しは早い。各コーナーの性格を分析すれば対応のしかたもわかるはず。1コーナーの立ち上がりから3コーナーのブレーキングポイントまでは見えないが、それ以外の部分はすべて見渡せるピットで作戦を練る。

各コーナーの性格を把握するため再度コースイン。それまでより「引いた目」でコースレイアウトを再確認。

と、突然閃く。ストレートのある地点から1コーナーに向っては無視できない上り勾配がついている。わずかではあるが上りながら左に曲がる1コーナーは、コーナーとしては短いがカントがついている。それまでは状況は判断していたが、はっきりとは意識していなかったことだ。

これだ。ストレートとサブAはともに直線。もしふたつの間に4速に落とさなければならない1コーナーがなければラップタイムはずっと速くなるはずだ。

もし1コーナーの半径が実際より大きければ、通過速度が上がるからラップタイムも縮まるはずだ。

といっても現実にはありえない。だからこそ、1コーナーの通加速度≒脱出速度が「キモ」になる。

当時使っていた9.5インチのファイアストンスリックはコンパウンドこそ硬いものの、WIRでは半周でヒートアップする。最終コーナーを抜け、はるか遠くに見える1コーナーを目指す。

クルーチーフ兼マネージャーの奥さんが腰掛けているピットを横目に通過。フラッグタワーを通過。それまで気付かなかったが、その直後「一瞬ボトムした感じ」のあと路面はあきらかに上りに転じる。もちろんブレーキングポイントも「ブレーキレリーシングポイント」も上りの途中にある。

以前より20mほど手前でブレーキペダルに足を移す。より長い距離でブレーキングを行うためだ。むろん踏力はその分軽目。

なぜか? 運動神経と視力がよくないから「速さ」と「タイミング」を計るのが苦手だ。ならば、人より余分に時間をかけても「正確にオイシイところ」を探す以外にないではないか。

結果は大正解。余裕ができたせいか周りがよく見える。「速さ」がそれほど「スゴイもの」ではないように思える。

これで「ブレーキをゆるめる地点とゆるめる時の速さ」に集中できる。

2周目。イニシャルで速度を殺し、ヒールアンドトーで5速から4速。脱力しながらターンインポイントに向う。「速いか?」、「遅いか?」。ターンインポイントを過ぎてスロットルに足を戻す。

丁寧に切り込んだつもりが、インリフトのような感じ。「速いのか!」が、アウトへはらむ兆候はない。アンダーでもないが、それは上り勾配の路面がカントの役割をしているせいか。ステアリングホイールからタイヤのスクラブを感じる。

イーブンスロットルをキープ。上りだから少し戻し気味。横Gに変わる。「なんとなく」速い気がする。

インのディップをかすめ、足の指先に力を集中。出口までのラインが読めるようになる頃、スロットルを開け始める。全開にすれば間違いなくコースアウトするラインを「敢えて」取り、ワンテンポ遅れ気味でスロットルを開ける。

2コーナーの手前。以前より回転は上がったか? 上昇分は針の振れほどでしかないようだ。

1コーナー以外は変わったことをやらずに周回。アーリーブレーキングのイメージが鮮明な内にピットイン。タイムは?

「同じようなもんヨ」とクルーチーフ。「・・・・・×○!♪△」

が、どうすればどうなるかがわかるような気がしたプラクティス。「コーナーとの交渉」、そして「クルマとの対話」は続く。

第3話に続く