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コーナーの向こうに WIR (6) - YRS Mail Magazine No.75より再掲載 -

ウイロースプリングスレースウエイ ( 第6話 )

ほとんどの場合、クルマは加速時よりも減速時により大きな加速度(G)を発生する。つまり、「速さ」を軸にクルマの性格を見ると、速度を落とすことは得意だが、一度落ちた速度を回復させることは不得手ということになる。そして十分な制動力を備えるからこそ誰でも思い通りの速度で走ることができる。

いきおい、サーキット」を速く走るためのテクニックのひとつとして「奥まで突っ込んでハードブレーキング」がまことしやかに語られる。

実際、速く走るために特定の場所ではハードブレーキング(アメリカのスクールではスレショウルドブレーキング:threshold brakingと言う)が必用になる。高速で走る直線の終わりにあるヘヤピンにアプローチする時など、明らかに大幅な速度低下が求められる場所だ。

が、サーキットのレイアウトを前に考えてみればわかるが、サーキットにあるコーナーはヘヤピンばかりではない。コーナーは必ずしも直線の終わりにあるのでもない。と言うことは、コーナリングを開始するためにブレーキングが必用だとしても、ひとつひとつのコーナーが異なるように「ブレーキングに求められるもの」も違って当然なのだ。

ところが「クルマの性格」は先に書いた通りなので、いきおいブレーキング競争が始まる。あたかも「チキンラン」をやっているかのようにだ。結果、ブレーキにはオーバーロードがかかりパッドはまたたくまに消耗する。

> ひょっとすると「そこまでのブレーキング」は必要ないかも知れないという ことは、一切考えられていない。

サーキットは「イッテコイ」ではない。走り続ければ元の位置に必ず戻る周回路だ。ひとつひとつのブレーキングも夫々のコーナリングも大切だが、速く走るためには1周全体の流れがスムースでなおかつその平均速度が高い必要がある。

スムースに走るということはクルマのバランスを崩さないように走ることだ。

運転を始めたばかりの人に見られる「カックンブレーキング」を心の中で嘲笑する人はいるが、サーキットでもハードブレーキングは肯定される。どちらもバランスを崩していることに変わりはないのだが。

YRSの教科書にも書いてあるが、サーキット走行のブレーキングは止まるためにかけるのではない。コーナーを回るための準備。コーナリングは加速のための準備だ。つまり、ブレーキングは加速のためにある。

ところが、往々にして速く走ろうとしているのはわかるのだが、ブレーキング時にだけ頭の中が「止まる」モードに切り替わってしまっているケースを目にする。

6コーナーをうまく着地(?)すると眼前に7コーナーから8コーナーへの高速コーナーが広がる。深呼吸でもしたくなるように長い。

3速から4速。最終の9コーナー手前までひとつの大きな円弧で抜けるためにラインを選ぶ。5速。かなりの横G。8コーナーの中では、スリックタイヤを履いたクルマが明確に外に流れているのがわかる。不安はないが、なにがあってもスロットルを戻し前荷重にはしたくない場面。

8コーナーから9コーナーの間にある短い直線。ここがWIR攻略のキーポイント。1コーナーから5コーナーの平均速度に比べれば、6コーナーから1コーナーまでは「はるかに速い区間」だからだ。失速すればロスは大きい。その高速区間で最も半径が小さいのが9コーナー。ここの抜け方ひとつで平均速度が変わる。

多分、外れたと言っても30Cmほどのことなのだろうが、8コーナーへのアプローチを読み違えると短い直線に出たときのクルマの向きは大幅に変わる。「ステアリングを戻したい時」のGの大きさも変わる。

とにかく、「ダーッ」と外にはらみながら8コーナーを抜ける。横Gが消えるのは9コーナーへのブレーキング直前。アプローチで失敗した場合は、なんとかそれまでに帳尻を合わせる。

5速全開。浮遊感にも似た感覚。尻の下がむずむずする。

第7話に続く