ウイロースプリングスレースウエイ ( 第7話 )
8コーナーを抜ける。5速全開。明らかにタイヤがスライドしているのがわかる。「指先でチョン」とつついただけで「どっかにスッ飛んでいく」状態。
そんなクルマに乗り、しかも自分がそのクルマをコントロールしている。自分の身体と生命が自分の五感と判断力に委ねられる。生命感の高揚。
ナルシズムに浸っている場合ではない。
8コーナーを回っている時には見えなかった短い直線の全貌が目に入る。
「ンッ! 向きが気持ちアウトよりだ!」 「あれぇ! Gのかかり方が少ないなぁ」
直線に出た時の「クルマの状況」が微妙に異なる。共通しているのは「クルマがとんでもない速度で移動している」ことだけ。
最悪の場合は8コーナーの横Gが抜けないうちにブレーキングを開始し、なおかつロールが収まりつつあるクルマを再度ロールさせなければならない。
そんな「連続技」をあいまいな人間が正確にコントロールできるわけがないではないか。自分はセナではない。その時々に最善の姿勢を作り出しながら、それをスムースにつなげていくことが唯一凡人にできる方法だ。
「一度に2つ以上のことをやらないこと。」渡米前、日本の有名ドライバーをインタビューした時に聞いた言葉。
とにかく。とにかく、9コーナーの通貨速度はできるだけ高めたい。ここをより速い速度で抜ければWIRの高速区間の所用タイムが縮まる。ということはコーナーの中で頑張るよりはるかに効果的にラップタイムを短縮できる。
肝心なのは9コーナーへ安心して入っていける環境作りだ。慌てていては速度を落とせずに飛び出すか、速度を落としすぎてタイムが上がらないかだ。
目指すはブレーキングを終了した時点での安定した姿勢と高い速度。
コースを外れるとコブシ大の石がゴロゴロしているエスケープゾーンが待っている。「そんなもん見たくない!」目線を遠くに、遠くに、まだ見えぬ9コーナーの先へと走らす。
若干アウトに余裕を残して8コーナーを抜ける。スロットルは全開。横Gが残る。クルマがひねれる感じ。進むほどにステアリングの「重さ」が減る。
余裕を持って立ち上がった分、さらに「ステアリングを意図的に戻す」。減りつつあった横Gがゆっくりと、しかし完全に収束し、その時にクルマが短い直線と平行になっていればシメタもんだ。
一瞬の空白。
ブレーキペダルにそっと足を乗せる。ボール(足の親指の付け根)でペダルをさぐり、指に力をこめる。
全ての方向のGが消えていたクルマに、前後方向のGが生まれ始める。ショルダーハーネスに重さを感じる。が、3コーナーに入るときの「それ」とは違う。エンジンブレーキより「減速度の小さいブレーキング」。
えぐられたアウト側のエスケープゾーンを見たがる目を意識して右に振る。
いつ離したかわからないように、右足をブレーキからスロットルへ移す。クルマが加速もしない減速もしない状態になるまで右足の重さを加える。
9コーナーの縁石の中ほどが見える。クルマの向きが変わることを見取られないほどに、右手でステアリングを引く。
第8話に続く
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