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コーナーの向こうに ラップタイム(1) - YRS Mail Magazine No.98より再掲載 -

ラップタイム ( 第1話 )

最近「どうもタイムが縮まらない」とか「なんか安定しちゃってるんだよね」という声を耳にします。ボクは「良かったじゃない!」と言いたいのですが、みなそれぞれに不満顔。なぜでしょう?ラップタイムが縮まらなくなったのも安定しているのも「成果」だと思うのですが。

ボクは、ここに日本のモータースポーツの歪のひとつを見ます。「結果が全て」という思想です。

#この件については色々と言いたいのですが、散漫になるといけないので少しずつ話を進めます。

安定して走れるようになったということはすばらしいことです。状況を推察するに、ラインを多少外そうとブレーキングポイントがずれても、「それらの突発的インシデントに対応できる余裕」を持って走れるようになったからだと思います。換言すれば、「安定したラップタイム」こそがその時点でのその「運転手とクルマの速さ」なのです。

筑波ドライビングワークショップや昨年行っていた筑波ドライビングスクールでは、大原則として一人ひとりの参加者に≪座標軸≫を探してもらうことを目標にしています。その座標軸こそ、一人ひとりの安定した「運転手とクルマの速さ」です。

例えば経験のない方にとって、GTRに乗っていようと50秒コンスタントで周回することは難しいことかも知れません。経験のある人にとっての50秒は、軽自動車でも連続して出せるタイムかも知れません。それこそが、「運転手とクルマの速さ」なのです。

繰り返します。GTRで50秒を切れなくてもそれは遅いのではなく、おかしいことでもなく、恥ずべきことでもありません。≪イチカバチカの走り方≫でなくコンスタントに走れるのでしたら、それがそのドライバーの座標軸の原点になります。

そして。『原点が定まってこそ次ぎの速さが見えてくる』のです。

理屈っぽく聞えるかも知れませんが事実です。原点が定まったドライバーはマイナスとマイナスの局面上にある操作をしないから安定して走れます。プラスとマイナス、あるいはマイナスとプラスの局面を行き来しながら走っている状態です。

ここに至り、初めてラップタイムを上げることが可能になります。プラスとプラスの局面で走るようにすればいいのです。

方法はいろいろありますが、ユイレーシングスクールが勧めるのはレースに出ることです。例えGTRで50秒でも、それがその人の「運転手とクルマの速さ」なのであればレースにでることです。

「500周は走んないとわかんないよ!」と言う方もいるそうですが、それは非現実的です。我々アマチュアにとって大切なことは、垂直にものを積み上げていくことではなく、発想の転換です。かつ、それが最も現実的な手法です。

クルマは人間が操作して初めて動きます。しかし人間と言うものはイイカゲンで常に正確な操作ができるわけではありません。職業競争自動車運転手でもないかぎり当然のことです。そして操作は人間の意識に多分に影響されます。レースに出るということは、走る目的が≪勝敗≫なります。もちろん≪ラップタイム≫も無視できませんが、速さより≪強さ≫が圧倒的に求められるのも事実です。

ひょっとすると50秒のGTRは軽自動車に負けるかも知れません。が、それでもいいのです。まず、目指すところを≪単純な速さ≫ではなく≪複雑な強さ≫に置き換えることのできる、あるいは強いられるレースに出ることです。

最初のレースは、おそらく頭の中が真っ白になるかも知れません。ちょうど初めてサーキットを走った時のようにです。しかし、意識して「運転手とクルマの速さ」を持続すれば見えてくるものが必ずあります。

それがユイレーシングスクールがレース参加を勧める理由です。ですから、逆に≪イチカバチカの走り方≫しかできない人にはレース参加を勧めていないのです。

運転自体は日常生活の延長です。ところがサーキットという「解き放たれた場所」で走ることは非日常です。レースに出るともなれば、さらに奥まったところにある「まだ見ぬ世界」を覗くことでもあるわけです。

未経験のことに挑む時。人間には新たな知恵が浮かび工夫が生まれます。タイムが安定してしまったドライバーが探すべき「速さ」は、そのプラスとプラスの局面にこそあるのです。

6月9日。筑波エンデューロに初めて乗るビッツ1000で参加しました。125周走ってベストラップは51.457秒でした。同じ日にこれも初めて乗った「スズキKeiスポーツR」で8周の連続走行をしてベストが50.449秒でした。どちらも自分の限界の80%で走った結果だと思っています。

もし100%で走ったらもっと速かったかと聞かれれば、「ほんの少しはね」と答えます。

80%で走ったタイムが重要なのではなく、20%の余力を残すことの方がボクにとっては大切なのです。なぜなら、その余裕が両手にあまるほどの「新しい発見」をもたらしてくれたからです。

アメリカでレースを始め、同じ年にSCCAのカリフォルニアスポーツカークラブのチャンピオン、同じく南カリフォルニア地区のチャンピオン、そして同じく南太平洋地域のシリーズ2位になったことがあります。

全米を8つの地域に分け、それぞれのシリーズ3位までがSCCA全米選手権に招待されます。単純に言って8x3で24人が出走するレースです。ボクは地域2位ですから、うまくいけば9位、へたすると16位に終わる可能性のあるレースです。もちろん机の上での計算ですが。

地区から招待されたのは2人。残りのドライバーは会ったこともなければ、どんなクルマに乗っているのかもわかりません。それでも、胸の中には「いい成績を残したい」という気持ちがいっぱい。

より強くなるために3500マイル離れたジョージア州のロードアトランタに向かいます。

第2話に続く

 

≪資料≫