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コーナーの向こうに ラップタイム(15) - YRS Mail Magazine No.115より再掲載 -

ラップタイム ( 第15話 )

「テールが落ち着かないなぁ。まだ暖まっていないのか。それとも踏みすぎか。」オポジットステアにならない範囲でペースを上げる。310サニーは荒い修正を加えているんだろう。ヒョコヒョコしながら4速全開の4コーナーを回る。

リアビューミラーの中の黄色いミニクーパー。「ミニはどれもあなどれない。
なんせどこからでも来るからな!」4コーナーのアウトに飛び出されると次の右が苦しくなる。相打ちはいやだから4コーナーのインに入り込めない範囲でアウト側を通る。案の定、一端右に出たミニクーパーが左に動く。遅めに右にステア。大丈夫。これで並んでもヘアピン手前の右では先にいける。

「それにしてもあんだけ振り回してもタイヤは大丈夫なのかね。」1周目からハイキーな走りを見せるミニクーパー。「早いうちに前に出たい気持ちはわかるけど、レースはまだ始まったばかり。これからじゃないか。」

コースをメイッパイ使わず中庸を通り、アウトインアウトでヘアピンをクリアするスターレットを外から威嚇する。「そんだけ自由に走れるんだったらもっと予選で頑張れたんじゃないの!そのペースで最後までもつのかねぇ。」

多少、いやかなり鬱陶しい。「ミニはショートシュートが速いからブリッジまで我慢だ。とにかく慌てないことだ。それと悟られてもだめだ。」

上りのヘアピンのアウトにはらむ。小さく回ったミニクーパーがリアビューミラーから半分消える。「横に並んだって次は右だよ。」

一度下ってまた上るストレート。「4速までは同じようなもんだ。」チラッと見やったリアビューミラーにミニクーパーのボンネットが見える。「大丈夫。」スペースを残すため右よりで走ってきたラインを左端にもどしたい。「ブレーキングで来るかな?」リアビューミラーを見続ける。「だめだ。相手も待っている。このまま行こう。」

とにかく後と争って2台のペースが落ちるのは避けたい。前が逃げる。1台半分右よりから6コーナーに入る。ブレーキングポイントを心もち遅らせる。踏力も減らす。トレイルブレーキングの度合を強めて右にステア。進入速度は高い。

「やっぱりなぁ。このコースでカントが一番付いているコーナーだからそれほどお尻がでるわけじゃない。使えるな。あとはタイヤだけか。」

ショートシュートで2速に落とす直前リアビューミラーを見る。ミニクーパーのグリルが見える。「?」「突っ込みすぎたのか?」

「よし。ここでは来れない。」ストレート速度を上げるべくできるだけスムースに7コーナーを抜ける・・・。つもりが、「なんてこった。遅い。タイヤをいたわる癖がついてしまったのか!」

カウンターステアを切らなくて言い程度に慌ててスロットルを開ける。3速。ミニクーパーはすぐ後ろ。4速。ドラフトに入っている。8800回転まで回して5速。ミニクーパーが少しだけ離れる。「上が伸びないんだ。」

310サニーはすぐ前。ドラフトに入れた。スロットルを戻さないと追突しそうになる。「でもここで出るとラインが重なる。待ちだ。」ミニクーパーとの間合いを確認しながらスロットルをコントロール。310サニーに近づき過ぎないように後を追う。

「ブリッジ下で回られたらたまらないからなぁ。ミニもここじゃこないだろうし・・・。」

スピードを殺さないようにブレーキング。丁寧に右にステア。こちらがインに向かう頃、1台分外側のラインで310サニーが左前輪に全荷重をかけたような姿勢で回る。「焦っているんだ。」

下り。テールツーノーズ。「うまくクリアしてくれヨ!」

12コーナーを連なって抜ける。ミニクーパーは少し離れる。「高速コーナーが遅いんだ。」310サニーのドラフト。吸い寄せられる。「ショートシフトか? いや置いてかれるかもしれない。」全開で5速。追突しそうになる。スロットルを少し抜く。「まだ、まだ。」

310サニーのリアビューミラーの中で目が合う。「抜かないふりをしたほうが良さそうだ。」

310サニーはこっちに抜く気がないと見たんだろう。アウト側のラインを変えない。310サニーのウインドを通して1コーナーが見える。右に出て抜いて左に戻れるだろうギリギリのところまで待つ。だいぶスロットルに余裕がある。コントロールラインはとっくに越えた。

「今だ!!」右にステア。直後に全開。

310サニーのリアフェンダーとスターレットのフロントフェンダーが重なる。思いの他ドラフトが効く。ドアツードアになったかと思うと、スルスルとスターレットが前に出る。しかし1コーナーが目前。アウトいっぱいに振る余裕はない。左に転舵して抵抗にならない範囲でアウトによる。ほんの少し早めにブレーキペダルに足を乗せる。気持ち踏力を少なめに。全神経をステアリングに集中させる。

ステアリングを切り込む。グッと手ごたえがある。確実にそれまでより速い。ステアリングをこじないように、自然に自然にアウトにはらみながら坂を登る。

310サニーの全身がリアビューミラーに収まる。離れた!「今だ。あきらめさせなきゃ!」

上りながらラインを切り替えし3コーナーに対してアウト側に寄せる。タイヤがもったいなくて走れなかった速さで3コーナーに入る。立ち上がり4コーナーのインにつきながらミラーを見ると、310サニーとミニクーパーが重なって3コーナーを抜けてくる。

長いインベタの4コーナー。少し距離はあるものの、大きく右にロールしながら抜けていく27カローラが見える。

「あれは1400ccだよな。」想像していたよりずっと冷静に運転している自分を見つける。

「そうだよな。ランオフったってレースなのは変わらないよな。」ロードアトランタに来てから、常に8800回転まで回すのは初めて。3Kエンジンが軽くなったように思える。

第16話に続く

※ 解説用コースレイアウトにあるシケイン(8コーナー)はスポーツカーレースの大きな事故をきっかけに作られたもので、全米選手権の時にはなかった。

≪資料≫