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Go−CircuitNo.220(08/10/06発行)
---------------------------------------------------- Taste of USA ----
●クルマを走らせるのは楽しい。速く走らせるのはもっと楽しい。●しかしク
ルマを安全に速く走らせることが難しいのも事実。走らせ方を理解していない
と楽しくもないし危険でさえある。●クルマをもっともっと楽しむために「ク
ルマさんとの正しいお付き合いの仕方」を学びませんか。●ユイレーシングス
クールからの提案です。●公道では安全運転を。サーキットではそれなりに。
》》Be Smarter、Drive Safer and Faster《《
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|1)YRSオーバルスクールの本質 トム ヨシダ
|2) 参加申し込み受付中
|3)デザイナーになればいい トム ヨシダ
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|1)YRSオーバルスクールの本質
ある日のこと。将来発売を予定しているYRSビデオの撮影でアンダーステ
アにおちいっているクルマの絵を撮ろうということになった。YRSオーバル
を舞台に撮影。クルマはロードスター。YRS卒業生が運転を担当してくれた。
「じゃぁ、思いっきりアンダー出して回ってみてくれる?」
「了解。」
サーキットで頻繁に見かけるフロントタイヤの方向とクルマの進んでいる方
向がものの見事にかけ離れているシーンを創造しながらカメラをかまえる。ラ
インを外れた時のことを考えて、クルマは小さくなるが引き気味の絵を撮ろう
と加速中のクルマを追う。
スロットルオフ。姿勢が変化する。ブレーキングノーズが沈む。しかし次の
瞬間、クルマはパイロンに沿って十分に速い速度で何事もなく旋回に移る。
「アンダー出てないよ!」 期待したシーンが見られなかったイライラを無
線機にぶつける。
「アンダーが出るようにやっているつもりなんですけど!」
「ホント?」
{ええ。」
「もっと極端にやってくれる?バキッって切ってもいいしドカンと踏んでも
いいから。」
「やってみます。」
再度加速中のクルマをファインダーの中に収める。今度こそ。
だが、ターンインの前後でクルマが大きく姿勢を変化させるようになっただ
けで、その後にアンダーステアを発生する兆候は見られない。
実際、幾度となく繰り返し走ってもらった。しかし撮りたい絵は現れない。
何をやってもヨーモーメントがクルマの中央で発生してしまう。クルマが暴れ
ていようとコーナリングに移るやいなやフロントタイヤとリアタイヤのスリッ
プアングルがそれぞれに変化しながら均衡を保ってしまう。前後輪ともライン
を外れない。ある局面を切り取れば確かにアンダーステアが生まれているし瞬
間的にはオーバーステアの兆候さえあるのだが、次の瞬間にはそれらが収束し
てしまうから視覚的にはニュートラルステアに映るしかない。
「今日はトムさん公認だから思いっきりアンダー出しますよ!!!」と言っ
ていたのに。本人ががっかりしたと言うぐらいクルマの姿勢は破綻しなかった。
「OK。やめよう。操作が身体に馴染んじゃっているからわざとやろうとし
てもできないんだな。昔はそればっかりだったのに〜。(笑)」
結局、アンダーステアの絵は以前にスクールで受講生の走りを撮影したもの
を使うことになった。そんなわけで撮影の目的はかなわなかったものの、ある
意味とっても嬉しい一日だった。
それは、運転を担当してくれた卒業生の無意識が意識に勝っていることを目
の当たりにできたからだ。アンダーステアを出そうと思ってもそのために必要
な操作ができない。本来ならそんな操作はご法度なのだが、敢えてそうしよう
と思っても身体が言うことを聞かない。
『らしい』雰囲気は創り出せるし、『速さ』にはつながらない『雑な操作』
ではあるのだが、『理論的』に見れば決して『間違った運転』ではないのだ。
それは、とりも直さず本能的にクルマがバランスを崩すような操作を嫌って
いるかだら。アンダーステアが気持ちのいいものではないということが身体に
染み付いているからだ。アンダーステアを出そうとステアリングをバキッと切
っているのに直後にリアにもスリップアングルがついてしまうのは、バキッの
直後に無意識に何かをしているからだ。
いいではないか。身体の中のセンサーがクルマの状態を把握し無意識のうち
に手足が動く。運転の理想だ。それこそユイレーシングスクールが求めるもの
だ。あとは何を目指して運転しているのか。その時のテーマさえ明確にすれば
身体が自然に動いてくれるはずだ。
ユイレーシングスクールは運転を教えている以上は受講した人の運転にまつ
わる能力が開発されなければ教えたことにならないと思っている。だから、ど
んな場面にしろ受講した人のドライビングポテンシャルが向上しているのを見
ることは幸せなことだ。
YRSオーバルスクール。否、YRSがカリキュラムに組み込んでいるオー
バル定常円練習はサーキットを速く走りたいと思う人のためだけのものではな
い。機械としてのクルマとあいまいな人間の間に横たわるギャップを埋めるた
めに、運転に興味がある人、運転が楽しい人全てに体験してもらいたいと思っ
ている。自動車とは言うが、自動車が自動で動いてくれるわけではない。安全
に走ろう、速く走りたいという意思を持ち動かし方を知っている人間が操作し
て、初めてクルマは安全にそして速く走ることができる。
・YRSオーバルスクール浅間台レポート
http://www.avoc.com/3result/report_school/yos/2006/060728yosa.shtml
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|2)参加申し込み受付中
〓〓〓〓以下のプログラムへの参加申し込みを受付中です〓〓〓〓
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| ★YRS卒業生はどなたでも参加できます★
□9月2日(土)YRSエンデューロ&スプリント第5戦FSW
今年のYRSスクールレースも残すところあと2戦。舞台は2戦ともFSW。
関係者も認める安全でクリーンでありながら、ずっとお金のかかるレースより
面白くて楽しい。今回もYRS卒業生のレベルの高さを見せて下さい。
| ※今回もYRSエンデューロにソロ参加を認めます。参加費は通常の半額で
| す。ただしFSWは出走台数が20台なので、ソロ参加は先着順に8台まで
| 受け付けます。9台目以降の方はリザーブドエントリとしチームエントリが
| 12台に満たない場合に出走していただきます。
【YRSスプリント公式通知】
現在YRSスプリントではロードスタークラスを唯一のワンメイクレースとし
ていますが、新たにNR−Aクラスを新設します。ただしレース自体はNR−
A以外のロードスターと混走します。章典のみ以下の通りに授与します。
NR−A出走台数3台以上4台以下:1位のみ
NR−A出走台数5〜8台:1、2位
NR−A出走台数9台以上:3位まで
尚、車両は2006年度NR−A車両規定に合致したものに限ります。
またFSWでは同一車種で9台以上の参加があった場合はその車種をワンメイ
ククラスとし単独の章典の対象とします。
ただしNR−Aクラス、ワンメイククラスとも開催日1週間前の申込締め切り
時点での台数を基にクラス分けを決めます。
・YRSエンデューロシリーズ規則書
http://www.avoc.com/2race/closed/yes.shtml
・YRSスプリントシリーズ規則書
http://www.avoc.com/2race/closed/yss.shtml
・FSWショートコース歴代ラップタイム
http://www.avoc.com/cgi/laptime.cgi?fsws,b,01
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| ★どなたでも参加できます★
■9月13日(水)YRSドライビングワークショップ筑波
筑波サーキットジムカーナ場を使ったドライビングワークショップ。スレッ
シュホールドブレーキングの練習で加減速のトランジッションをマスターしま
す。YRSオーバルコース筑波(32X80m)を使って直進から旋回へのト
ランジッションを練習します。目的はただひとつ。クルマの動きを身体に馴染
ませることです。トレイルブレーキングを使った積極的なコーナリングでは千
分の一までタイムを計測。FMラジオを通してリアルタイムに速さを確認しな
がら操作の仕方を修正していきます。
【カリキュラム抜粋】
ドライビングポジションの確認
スレッシュホールドブレーキングのかけ方の説明と練習
イーブンスロットルを使った理想的なコーナリングの説明と練習
トレイルブレーキングを使った速いターンインの説明と練習
※ コーナリングで犯しやすいミスをビデオに収めてあります
http://www.avoc.com/5media/video/movie.php?t=oval2006-intro
・YRSドライビングワークショップ筑波開催案内
http://www.avoc.com/1school/driving/ydwt.shtml
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| ★どなたでも参加できます★
■9月14日(木)YRSドライビングワークショップもてぎ
ツインリンクもてぎのマルチコースを使ったドライビングワークショップ。
カリキュラムは他のYRSドライビングワークショップと同じですが、YRS
オーバルコースもてぎは異形オーバル(38X56X120m)のため一歩先
を行くカーコントロールを習得することができます。高い適応性が求められる
YRSオーバルもてぎ。ぜひ体験してみて下さい。
【カリキュラム抜粋】
ドライビングポジションの確認
スレッシュホールドブレーキングのかけ方の説明と練習
イーブンスロットルを使った理想的なコーナリングの説明と練習
トレイルブレーキングを使った速いターンインの説明と練習
※ 参加費にはついんりんくもてぎ入場料が含まれています
※ 使用するコースの動画を掲載してあります
http://www.avoc.com/5media/video/movie.php?t=oval2006-fukazawa
・YRSドライビングワークショップもてぎ開催案内
http://www.avoc.com/1school/driving/ydwm.shtml
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| ★どなたでも参加できます★
■9月22日(火)YRSドライビングワークショップFSW
911&ポルシェマガジンに取り上げられたYRSドライビングワークショ
ップFSW。合理的かつ明快なスタンスのカリキュラムが評価されていたよう
です。
各地で行っているYRSドライビングワークショップは受講される方のドラ
イビングポテンシャルを向上させることを目的としています。単に速いだけ、
見た目にかっこいいだけ、の運転ではなく、一生クルマと快適に過ごすために
最低限必要な、それでいて一般には知られていないハウツーをお教えします。
YRSオーバルFSWは44X104m。今まで速く走ろうとしたことのない
方も、YRSのカリキュラムをこなせば無理なく時速90キロからのコーナリ
ングを経験できます。
【カリキュラム抜粋】
ドライビングポジションの確認
スレッシュホールドブレーキングのかけ方の説明と練習
イーブンスロットルを使った理想的なコーナリングの説明と練習
トレイルブレーキングを使った速いターンインの説明と練習
※ YRSオーバルFSWを走行中のタイヤの状態をご覧になれます
http://www.avoc.com/5media/video/movie.php?t=oval2006-tiresworkharder
・YRSドライビングワークショップFSW開催案内
http://www.avoc.com/1school/driving/ydwf.shtml
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|3)デザイナーになればいい トム ヨシダ
山海堂が出版していた今はなきレース専門誌オートテクニックに技術解説を
書いていたのもオートスポーツ誌増刊のイヤーブックにレーシングマシン解説
をしていたのも30年は昔のことで、アメリカに行ってからはクルマそのもの
より運転が興味の対象となったこともあってあまり技術的な勉強はしなかった
し、自分の技術的知識がアップデートされているとは思わない。が、速く走る
ために作られたレーシングマシンが目指すところは今も昔も変わらないはずだ。
むしろ、現在に比べれば技術レベルが低かった昔のレーシングマシン。技術的
な足りないものを人間の知恵と工夫で補おうとしていたレーシングカーデザイ
ンに『人間』は学ぶべきことは多い。
* * * * * * *
60年代のインディ500マイルレース参加マシンの写真を見たことのある
方は、サスペンションアームが左右で異なるフォーミュラカーに驚かれただろ
う。なぜ車体が左側にオフセットしているのかと。まもなく車両規則の改定で
マシンのパラメーターは左右対称でなけれなならなくなったが、オフセットシ
ャーシはエンジンとトランスミッションと人間と言う重量物をコーナリングの
回転中心に近づけることでコーナリング速度を上げるために誕生した。左回り
しかしないオーバルレースだからこその工夫だ。
実際、物体の重心と円運動の中心との距離が短ければ物体に働く遠心力は弱
まる。だがそれだけではない。クルマは地面の上の4本のタイヤに支えられて
動いている。その重心は車高の低いフォーミュラカーにしろ地面から離れたと
ころにある。つまり空中にある。その重心に遠心力が働くとクルマはアウト側
のタイヤを支点にして傾く。ロールだ。するとイン側のタイヤの設置圧が低く
なる。ということは、せっかく4本のタイヤがついているのにイン側のタイヤ
の性能を使い切らないでコーナリングをしなくてはならない。だから。重量物
をコーナリングの中心方向に移動させてロールを抑えどのタイヤにもメイッパ
イ働いてもらおうというわけだ。
だから、『YRSオーバル浅間台ではふつう、運転席がコーナーに対して内
側にある時が速い。国産車なら右回りだ。ところがまれに左回りのほうが速い
人がいる。ということは右回りはもっと速く走れるということだ。そして、オ
フセットシャーシから学ぶこと。それはコーナリング中は4本のタイヤ全てが
遠心力に抗う力=コーナリングフォースを最大限に発揮できる状況を作らなけ
ればならないということだ。』
ちなみにインディーカーでは禁止されたオフセットシャーシ。NASCAR
ストックカーやUSACスプリント、ミヂェットではいまだに健在だ。80年
代のNASCARウィンストンカップなどチューブフレームの左寄りに位置す
るパイプの中に鉛を詰めて、非合法的に重量物をコーナーインがわに集中させ
ようとしていたことすらある。もちろん車両規定でコーナーウエイトは規制さ
れているが、乾燥重量でも左側が重いシャーシを作ろうという涙ぐましい努力
だ。どんどんマシンのコーナリング速度が上がっていくものだから、最近の数
値は手元にないが、NASCARのトップカテゴリーは左側55%以下のオフ
セットに規制されているはずだ。
その昔。F1と言えばタイヤのオバケのようなマシンだった。特に70年代
前半。575Kgのシャーシに480馬力とも490馬力ともいわれたDFV
3リッターV8エンジンを搭載するのだが、当時の駆動力は純粋にタイヤのア
ドヒージョンに頼るしかなかったからあり余るパワーを路面に伝えるためには
ドラム缶を2つに輪切りにしたようなリアタイヤが必要だった。逆に13イン
チのホイールに履くフロントタイヤはそれほど太くはない。リム幅は10イン
チだったのだから。だからマシン自体がとてつもないアンダーステア特性であ
ったことは疑いのないことなのだが、速く走るためにはそれが当たり前だった。
ドライバーはそんなじゃじゃ馬をなだめながら、しかりながら速く走っていた。
だから、『4本とも同じサイズのタイヤが装着されている量産車に乗ってい
ながら人間がアンダーステアやオーバーステアを誘発させているようでは、ま
だまだその速さは本物ではないと言うことを学ばなければならない。十分にク
ルマを理解していれば、シャーシの特性としてアンダーステアのマシンをオー
バーステア気味に走らせ、オーバーステアのマシンをニュートラルステアであ
るかのように走らせることができるはずだ。もし自分が2サイズ細いタイヤを
フロントに履いた時、アンダーステアを出さずに走れるかということを想像し
てみるのも決して無駄ではないということだ。』
かなり昔の写真を見てもそうなのだが、近代のダウンフォースを積極的に使
うフォーミュラカーを除けばオーバルレースを走るマシンのフロントには奇妙
なキャンバーがついている。アウト側(右側)はレーシングマシンによく見ら
れるネガティブキャンバーなのだが、イン側(左側)にはポジティブキャンバ
ーがついている。かって1周2.4キロ。24度バンクのシャーロッテモータ
ースピードウエイで乗ったNASCARウィンストンカップカーには、アウト
側に3度のネガティブキャンバー。イン側に2度50分のポジティブキャンバ
ーがついていた。コースレイアウトにもよるがオーバルコースを速く走るため
には高い速度からのターンインが求められる。ターンの手前で減速していては
ライバルに引けを取る。ほとんどの場合トレイルブレーキングでターンイン。
しかもロードコースで使われるようななまっちょろいトレイルブレーキングで
はない。時速300キロ近い速度で重さ1.6トンの重量物の向きを変えるの
だ。フロントのアドヒージョンが不足していれば間違いなくウォールに直行だ。
それで、強烈なブレーキングで前過重になった時にフロントの両輪に最大の仕
事をさせるために対地キャンバーをゼロにする。そのために変則的なネガティ
ブ/ポジティブキャンバーがついているのだ。
だから、『コーナーの進入でアンダーステアが消えないからとフロントの両
輪に過度のネガティブキャンバーをつけたクルマを見かけるが、オーナーに聞
いてみたいものだ。ターンインの時にフロントイン側のタイヤがどんな仕事を
しているか確認したことがありますか、と。クルマのセッティングは人間を楽
にさせる種類のものではない。クルマの限界性能を上げるためのものだ。ネガ
ティブキャンバーをつけるにはそれなりの目的があり法則がある。たった一種
類のキャンバー角で全てのコーナー、全てのサーキットで速く走れると思った
ら大間違いだ。キャンバーをつけるならばなぜ走することがいいのか、ロード
ホールディング全体にどういう影響を与えるのか学ぶ必要がある。限界性能を
引き出すことができないのならば、とりあえずは何もいじらずに乗ることだ。
それ以外に人間の掛け値なしの速さをあぶり出す方法はない。』
レーシングカーは前後ともダブルウィッシュボーン式サスペンションを備え
る。A型アームにしろI型アームにしろほぼ上下に平行に並ぶ2本のサスペン
ションアームでシャーシとタイヤをつなぐものだ。身近な例ではロードスター
のそれだ。量産車に見られるようなマクファーソンストラット式もマルチリン
ク式は使われない。なぜか。構造がシンプルでなければならない。重量がかさ
んではならない。そして最大の理由はホイールの上下動に伴うキャンバー変化
を限りなく減少させることができるからだ。走行中いついかなる時もタイヤの
アドヒージョンの変化を最小限に抑えたいからだ。換言すれば、どんなにサス
ペンションが動こうともタイヤのコンタクトパッチ(接地面)が元の大きさよ
り小さくなるのを防ぐためだ。
だから、『ターンインでアウト側タイヤはサイドウォールまで大きく変形し
イン側のタイヤの接地圧が逃げている状態は、例えターンイン時の速度が速く
ても次の瞬間には失速する。クルマの向いている方向とクルマが内包する慣性
力の方向に大きな差があるからだ。極端な言い方をすれば、ある瞬間には3輪
でコーナリングしているようなものだ。タイヤの性能を全て使い切りより高い
速度でのターンインを可能にするためのダブルウィッシュボーン式サスペンシ
ョンなのに、エネルギーの方向を変える手続きを学ぶのを忘れたものだからせ
っかくの足が機能しない。』
走っているクルマには速度によって変化する慣性力が働く。するとクルマは
前後左右に姿勢を変化させる。それがローリングとヨーイングとピッチングだ。
そして慣性力は加速度だからクルマの姿勢制御は難しい点。
レーシングカーは車両規定ぎりぎりまで低く作られる。遠心力によりクルマ
がロールする量を減らし安定した走行ができるように。かつタイヤが4本とも
しっかりと地面に張り付いていてくれることを期待してのことだ。大昔にはフ
ロントエンジンリアドライブレイアウトのレーシングカーがあったが、現代で
はUSAC規定の車両を除けば全てがミッドシップレイアウトを採用している
と言って差し支えない。重量物をホイールベースの間に収めて運動性能を上げ
るためだ。くだいて言うならば、前輪より前、後輪より後ろの重量を減らすこ
とによって慣性力(この場合はヨーモーメント)を小さく抑え運動性=クルマ
の向きを変えやすくしようというわけだ。
最後のピッチング。これがなかなか曲者だ。クルマが加速する。減速する。
そのたびに姿勢が変化する。過重が前に移ると、前輪の輪過重が増え見かけ上
のアドヒージョンが上がる。同時に後輪のアドヒージョンが減少する。過重が
後ろに移動すると反対のことが起きる。いずれにしろピッチングがクルマのバ
ランスを崩す可能性が最も高い。それで、レーシングカーにはアンチダイブジ
オメトリーと呼ばれる過重がフロントにかかってもノーズが必要以上に沈み込
まないようにサスペンションアームの取り付け点に工夫がされている。逆にア
ンチスクワットジオメトリーと呼ばれるのが過重が後輪にかかっても必要以上
にテールが沈み込まない配置だ。前者がブレーキング時にノーズが沈むのを防
ぐ=テールがリフトするのを防ぐためであり、後者は加速時にテールが沈みノ
ースがリフトするのを防ぐためのものであることはわかるだろう。ブレーキン
グでは4輪がしっかりと地面に張り付き、トラクションをかけてもフロントの
アドヒージョンを極端に低下させないためだ。
だから、『ローリングとヨーイングに関してはクルマごとに特性がある。背
の高いクルマは大きくロールするしオーバーハングの大きなクルマは応答性が
悪いが、クルマごとに特有の性質だからそれはいたしかたない。しかしピッチ
ングについてはクルマの特性としてやむを得ない場合はあるが、最も人間が介
在することで制御できる=4輪のアドヒージョンを保つことのできる要素であ
ることを学ぶことができる。』
だから、『コーナー直前までブレーキを我慢して最後の瞬間にドカンと踏む
ようなブレーキングは、例えサスペンションを固めていても量産車である限り、
否、量産車だからこそクルマ全体のロードホールディングを損なうことを学ぶ
べきだ。上屋の大きな量産車はただでさえ大げさな姿勢変化を起こす。硬いサ
スペンションスプリングに変えて姿勢変化は少なくなっても、過重移動は以前
と同様に確実に起きている。高い速度からのコーナリングを試みるならばター
ンイン前に4輪ともが本来のアドヒージョンを回復しているような操作をしな
ければならない。』
だから、『速く走りたいからといってコーナーの立ち上がりで不用意にスロ
ットルを開けるべきではない。その時点でクルマ全体のロードホールディング
が低下することを学ばなければ、理想的なコーナリング速度を維持できるわけ
がない。結果として目指すのは4輪のアドヒージョンを最大限使ってコーナー
リング中の速度をまんべんなく底上げすることを優先しなければならない。』
レーシングカーがなぜそのように作られているのか解きほぐしていくと安全
に速く走るために必要な条件と法則をそこかしこに見出すことができる。時代
が変わってレーシングカーの形態や機能が変化することはあっても目指すとこ
ろは同じ。限られた4本しかないタイヤだけに頼って、【いかに路面をひっ捕
まえるか】だ。
レーシングカーデザイナーとは競争相手より速い=パフォーマンスポテンシ
ャルが高いレーシングカーのデザインに全神経を傾注している人たちだ。地面
にはくっついていない不確かなクルマをどうやって安定させて走らせるか四六
時中考えている人たちだ。
レーシングカーの設計思想から実に多くのものを学ぶことはできる。だから
と言って高度に複雑化された現在のレーシングカー技術をひもとく必要はない。
なぜそう作られているかということに想いをはせれば、運転する時のお手本と
なり得る。
運転が好きだからと言って我々がレーシングカーデザイナーになるには無理
があるが、安全に速く走りたいのならば、レーシングカーの作り方を参考に理
論的かつ体系的な操作のできる自分を創りだすデザイナーになればいい。
* * * この項終わり * * *
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