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          Go − Circuit No.178 (12/29/03発行)

---------------------------------------------------- Taste of USA ----
●クルマを走らせるのは楽しい。速く走らせるのはもっと楽しい。●しかしク
ルマ安全に速く走らせることが難しいのも事実。走らせ方を理解していないと
楽しくもないし危険でさえある。●クルマをもっともっと楽しむために「クル
マさんとの正しいお付き合いの仕方」を学びませんか。●ユイレーシングスク
ールからの提案です。●公道では安全運転を。サーキットではそれなりに。
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    ☆ ★ ☆ ★ ☆  Seasons Greeting  ☆ ★ ☆ ★ ☆
                   Have  a  Nice  One !
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1)フロム シニアインストラクター               トム ヨシダ     
2)数字で見るユイレーシングスクールの2003年
3)3105名と1124名
4)筑波スプリント&筑波エンデューロ             
5)ユイレーシングスクール2004年のプログラム
6)なぜオーバルレースなのか                     トム ヨシダ

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1)フロム シニアインストラクター               トム ヨシダ     

  12月19日に筑波サーキットで今年最後のドライビングスクールが終了。
22日夕方にロサンゼルス行きの飛行機に乗り込み、時差の関係で同じ日の昼
前にはオレンジカウンティにある自宅に戻る。日本よりは暖かだが、あいにく
とストームのせいで南カリフォルニアには似合わない薄暗い、強烈な雨の降る
クリスマスを迎える。

  さてさて、毎年この時期になるとユイレーシングスクール主催のスクールや
イベントに参加された方のデータを整理するのだが、例年これがたいそうな仕
事となる。データについては別項に詳しいが、なにしろ数字のひとつひとつか
らその時にあったことを思い出し、「あん時はああだったよなぁ」、「こん時
はこうだったっけ」と回想に耽るがあまりつい手が止まってしまうのだ。
  ともあれ、今年も事故らしい事故もなく無事終えることができた。すべては
安全を最優先に参加してくれた皆さんのおかげだと思っている。この場を借り
て心からお礼を申し上げたい。

  それにしても、筑波スプリントと筑波エンデューロの最終戦は個人的には嬉
しいレースだった。かなりの方が自己ベストを更新されたはずだ。気温が低く
クルマにとっては良好なコンディションだったとは言え、より性能を発揮しや
すい状況でクルマをきちんと走らせる技を備えていたからこそ達成できたはず。
ラップタイムが思っていたほど伸びなくても、前回よりは積極的にレースを戦
えた方もいるだろう。参加者がリスクをおかさずにどんどん巧くなるのを見る
ことは、実に楽しいし嬉しいことだ。
  しかし同時に『まだまだ天井じゃない。まだ何かできることがあるはずだ。』
と思うのも事実。実際、既にYRSのレースはかなりのレベルにあると確信は
しているが、クルマさんともっと仲良くなるための努力の余地が残されていな
いわけではないと思っている。

  YRSで初めてサーキットを走り、スポーツドライビングを続けてみようと
思った方々のためにも、YRSが主催するスプリントレースとエンデューロレ
ースを大切に育てていきたいと思っている。全ての卒業生がレースに参加すべ
きだとは思ってはいないが、スポーツドライビングを目指したからには一度は
レース参加を考えてみるのもいいと思う。レースには単なるサーキット走行で
は得られない様々な局面があるのだから。そんな時、安全にヨーイドンを体験
できる場としてYRSのレースがあれば、手軽に、同じ安全意識を共有しなが
らレースに参加することができる、と思う。
  一方、YRSのレースを経て次のステップに踏み出した方、踏み出そうとい
う方もいる。日本の現実ではそれほどの選択肢があるわけではないが、自分の
クルマに対する姿勢がどこまで通用するか試してみるのも決して無駄ではない。
YRSが主張する理にかなった運転ができれば、結果もおのずとついてくるは
ずだ。

  初めて日本でドライビングスクールを開催したのが1999年の12月9日。
桶川スポーツランドでのことだった。以来4年。ユイレーシングスクールはみ
なさんの力で小さいながらもモータースポーツのシステムを作ることができた。
まだまだ未完成の部分が多いのが実情だが、これからも『モータースポーツを
もっと楽しく、もっと手軽に、もっとみんなで!』を指針として仲間をふやし
ていきたいと思う。

  スポーツドライビングを楽しんでいる方すべてにとって来年が良い年であり
ますように。

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2)数字で見るユイレーシングスクールの2003年

  ユイレーシングスクールにとっての4年目が終わりました。ドライビングス
クールの開催数が増えたこともありYRSに参加していただいた方の数は、2
002年の1,164名から大幅に増加しました。内訳は次の通りです。

・2003年YRS参加者数
筑波ドライビングスクール        451名
筑波エンデューロ                218名
筑波スプリント                  293名
筑波ドライビングワークショップ    33名
ドライビングワークショップ浅間台  78名
オーバルスクール浅間台          181名
筑波1Kラッピング                50名
筑波2Kラッピング                64名
延べ参加者合計              1,368名

  この他にも雑誌エンジンが主催しYRSが運営したドライビングレッスンに
参加された方が22名。筑波サーキットコース2000で行った100分練習会に
参加された方が84名。これらの方を含めると1,474名もの方にお会いし
て、ドライビングについて直接お話することができたことになります。

  YRSが直接主催したドライビングスクールとイベントの参加者層をYRS
なりに分析してみた結果は次の通りです。(以下の数字は2003年YRS参
加者1,368名のデータから算出)
平均年齢:                        34.8歳
最年長参加者:                    67歳
最年少参加者:                    19歳
女性の参加者:                    66名(4.8%)
サーキット未経験の参加者:      141名(10.3%)
ノーマルカーでの参加者:        316名(23.1%)

  ユイレーシングスクールが日本で初めてのドライビングスクールを開催した
のは1999年12月9日の桶川ドライビングワークショップで16名の参加
でしたが、それ以降は毎年参加者が増え、今シーズン終了時点での累計は4,
124名となります(エンジンドライビングレッスン、100分練習会参加者
を含む)。

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3)3105名と1124名

  YRSでは開業直後から利用してきたこともあって、筑波サーキットコース
1000を走った参加者のその日のベストラップをデータとして残してきました。
昨年からはコースに設置された計測器のデータを購入し正確を期しています
(それ以前はデータが未公開のため印刷結果を元に入力)。
  現在までにコース1000で開催したYRSのドライビングスクールあるいはレ
ースに参加して1周でもラップタイムを記録した方は延べ3,105名です。
ただ複数回参加されている方が多いので、個人別に見ると実際は1,124名
の方のデータということになります。
  YRSウェブサイトの結果には、1,124名の記録をベストラップ順にソ
ートしたもの、3,105名の記録をラップタイム順にソートしたもの、個人
別にラップタイムの速い順にソートしたもの、参加車両の改造度別にソートし
たものを掲載しています。ご覧下さい。尚、改造度については参加者の申告に
もとづいています。

・筑波サーキットコース1000YRSベストラップ一覧
http://www.avoc.com/4circuit/4circuit_record/t1k/01frame_best.htm
・筑波サーキットコース1000YRS全記録一覧
http://www.avoc.com/4circuit/4circuit_record/t1k/02frame_time.htm
・筑波サーキットコース1000YRS個人別ソート一覧
http://www.avoc.com/4circuit/4circuit_record/t1k/03frame_name.htm
・筑波サーキットコース1000YRS車両別ソート一覧
http://www.avoc.com/4circuit/4circuit_record/t1k/04frame_car.htm

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4)筑波スプリント&筑波エンデューロ                     

  筑波スプリントと筑波エンデューロはYRS卒業生のステップアッププログ
ラムという位置付けで開催してきました。と言っても、その第一回は参加者も
少なく、いささか将来に不安を覚えながらの開催でした。
  2001年3月10日に開催した筑波スプリント第1戦は参加7台。実績も
ない得体の知れない初めての筑波スプリントに参加してくれたのは、今もYR
Sレースに参加されている山本洋一さん、綱島和憲さん、大森利男さん、松下
浩平さん、河村直哉さん、矢野昌邦さん(順不同)。それと筑波ドライビング
スクール1年目の優秀卒業生の樋口正人さんでした。クルマもATのシビック
フェリオからS2000。そして改造度8のシビックまでが一緒に走る無差別
級。それがローリングスタートから始まる3ヒートのスプリントレースの始ま
りでした。
  回を重ねる毎に参加台数も増え、同一車種だけのレースができるようになり
ました。過去2回開催されたS2000のワンメイクと今やすっかり定着した
ロードスターのワンメイクです。コース1000のような短いコースでレースをや
っても……、という声もありましたが、実際に開催されてみると非常に内容の
濃いレースが展開されたのに驚かれた方もいると思います。見たことのある方
なら理解できると思いますが、ロードスタークラスの一瞬たりとも気が抜けな
いあの神経戦は実に見ごたえのあるレースです。
  一方ではステーションワゴンやAT車などおおよそレースには向かないよう
なクルマの参加もすっかり定着しています。ワンメイク以外はクルマの走行性
能とラップタイムを基準にしたクラス分けを採用していますが、可能ならば将
来的には比出力と駆動形式の違いでそれぞれのクラスを独立させたいと考えて
います。
  筑波スプリントを語る上で欠かせないのが、レース中での自己ベストラップ
更新です。ラップタイムは出そうと思って出るものではありません。人間の欲
に影響された操作は、往々にしてクルマが求めるそれとは乖離するからです。
しかし競争というふだんのサーキット走行では味わえない環境で走っているう
ちに、自分では気づかなかった自分の中の秘めたるものが自然に現れ、結果的
に速く走ることができるのです。それがレースの魅力のひとつである生命感の
昂揚です。その意味で筑波スプリントはまさに究極のドライビングスクールだ
と考えています。

  筑波エンデューロはと言うと、第1戦が2001年4月28日。これまた参
加は7台といういささか寂しいスタート。当初は走行時間を120分として開
催しました。参加車両も軽自動車のスバルヴィヴィオからターボチャージャー
付きスカイラインまで動力性能には大きな差があったものの、独走していた速
いロードスターがゴール寸前でガス欠になり1周差でスカイラインにトップを
明渡すなど耐久レースならではの展開だったのを記憶されている方もいるでし
ょう。
  ちなみにこのレースの優勝車が2時間で走破した距離が135周。130分
レースになる前の最後のレース(今年1月19日)では同じクルマが2位に入
り19周多い154周しています。ピットストップ時間は最初から変わらず3
分X4ですから、純粋に平均速度が上がった結果です。ベストラップは1回目
の46.394に対し45.318秒と1秒短縮されていますが、一発の速さ
だけでは耐久レースで好結果を期待することはできません。参加台数が多けれ
ば追い抜きの機会も増え、速いコンスタントなラップタイムを刻むためには単
独で走る時とは違ったテクニックが求められます。速度差のあるクルマとひと
つの目標に向かって走ることが、速さだけでなく、あらゆる応用問題を解くこ
とのできるテクニックと判断力を養うのです。その意味で筑波エンデューロも
現状でなし得る究極のドライビングスクールだと考えています。

  さて、来年の話です。暫定カレンダーにも載っていますが、来年はしのいサ
ーキットと那須サーキットでもスプリントレースとエンデューロレースを開催
したいと思います。詳細は決まり次第お知らせしますが、各地のサーキットを
転戦することで次の何かが見えてくるのではないかと期待しています。まだY
RS主催のスプリントとエンデューロに参加されたことのない方も来年こそ一
緒に走ってみませんか?

  来年のYRSスプリントとYRSエンデューロの開幕戦は2月28日(土)。
筑波サーキットコース1000での開催です。参加受け付けは1月下旬から行う予
定です。また最終戦は12月4日(土)。場所は那須サーキットです。那須と
言えば……。YRSとしては1年の総括を兼ね、レース終了後に忘年会を行う
ことを計画しています。来年もYRSイベントをよろしくお願いします。

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5)ユイレーシングスクール2004年のプログラム

  ユイレーシングスクールでは来年から新たなプログラムを始める。そのひと
つが、YRSドライビングワークショップ成田。成田モーターランドを使って
『クルマの運転がうまくなる』ためのカリキュラムだ。
  サーキットを速く走るということは、本当は、運転という自己表現の手段の
一部でしかない。運転という大きなくくりの中にサーキット走行がある。安全
運転も、同乗者に不快な思いをさせない運転も、交通の流れを妨げない運転も
同様に、本来は運転という大きなくくりの中にあるものだ。
  それほど間口が広くおくの深い運転だから一朝一夕にうまくなる術はない。
しかしドライビングワークショップ成田では少人数制を採用して、できるかぎ
りの運転に関する情報を1日で提供しようというものだ。第1回は2月15日
(日)に開催する。詳細は決まり次第、年明けの早い時期に発表できる予定だ。

  暫定の2004年カレンダーにあるように、ユイレーシングスクールでは来
年からしのいサーキットの公式ドライビングスクールを受託、開催する。カリ
キュラムの詳細は決定次第発表するが、1回目は2月12日(木)に開催され
る。

  今年成田スポーツランドで開催し、9月以降は参加希望者が定員を上回るほ
どの好評を得たYRSオーバルスクール浅間台。来年も引き続き開催する。1
回目は2月6日。受付け開始はは1月上旬を予定している。

  その他のサーキットでもYRSならではのドライビングスクールを開催でき
るよう調整中で、決まり次第ウェブサイトで発表する予定だ。

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6)なぜオーバルレースなのか                     トム ヨシダ

  YRSではオーバルコースを使ったカリキュラムに力を入れている。理由は
簡単。周回路としては最も単純な形状にして、速く走るための要素が全て凝縮
され、かつ相互に影響し合い、速さに占めるドライバーの役割が高く求められ
るコースだからだ。
  しかし日本では、過去にCARTやNASCARストックカーが、現在はI
RLが年に1度開催される時に注目されるだけで、オーバルコースとオーバル
レーシングはモータースポーツ以上に認知されていないのが現状だ。
  だが、オーバルコースでレースをしなくても、オーバルコースをできるだけ
速く走ってみるだけでも『目から鱗』ぐらいに面白いはずだ。そこはオーバル
スクール参加者が証明してくれるはずだ。ここでは昔(ちょっと古いが)記事
にした文章の元原稿を掲載することで、オーバルレーシングを改めて振り返る。

=============  元原稿  ここから  ============

オーバルレースとスポーツ
 あれは1989年ぐらいのことだったと思う。当時の日本はバブルの全盛期だっ
たと記憶する。日本での打ち合わせがあり、どうせ日本に行くならと休日に富
士スピードウエイで行われていたフォーミュラ3000レースを見に行った。その
時、日本のレース界のベテランレースエンジニアと昼食を一緒にとりながらこ
んなこと聞かれた。
 「ネェ、まだアメリカにいるの。アメリカのレースってそんなに面白いかい。
技術的にもたいしたことはないし、だいたいオーバルレースっての、グルグル
回っていて何が面白いんだろ」ってネ。
 ボクとしてはどっちが上でどっちが下だとか、どっちが面白くてどっちがつ
まらないという見方でレースを考えたことがなかったものだから、正直言って
答えに困ったものだ。
 とりあえず「やってみなければ分からない部分もありますからネ」と逃げて
おいたが、ひとつだけはっきりしたことがある。
 日本のモータースポーツ界は未知のものや新しいものに対して非常に閉鎖的
で、社会がすごく狭いということだ。当時はかなりのお金がレース界に入って
きていたから、本当なら余裕をもって世界のモータースポーツに目を配ること
ができたはずなのにネ。それが原因のひとつで日本を脱出したのだけれども、
相変わらずの閉塞感にはいささか閉口したことを覚えている。

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人間が主役でなければ面白くない
 突然なぜこんな話をしたかというと、日本と日本人の大多数は『オーバルレ
ーシングを知らない』ということをみんなが自覚しないと、本当のオーバルレ
ーシングの面白さはこの先ずっとわからない、と思ったからだ。
 でも、結論からいうとオーバルレーシングに特別な見方があるわけではない
のだ。オーバルレーシングは自動車を使った競争が成立するために必要な手段
であっただけで、誰かがオーバルレースをやりたくて始めたのではないからだ。
 事実、アメリカのクローズドコースを使った初めてのレースは1897年に競馬
場を利用して行われている。
 その1年ほど前に公道を使ったレースが行われているが、これはレースとい
うより新聞社が主催したプロモーションだ。フランスで行われた初の自動車競
走といわれるパリ−ルーアン間のレースのようなものだ。
 一方、競馬場で行われたレースは一流のレーサーとマシンを集め観客にショ
ーを売るエンターテイメントビジネスとして始まった。今から100年以上も
前のことだが、アメリカのモータースポーツの全てはここから始まっている。
 余談だが、アメリカの競馬場は左回り。だから馬をつないでおくピットもス
トレートに対して左に向いて設けられている。そこにマシンを入れたものだか
ら、レースは必然的に左回りで行われるようになった。
 アメリカは建国以来の歴史が短いせいか、アメリカ人は歴史を作ることに異
常な情熱を傾ける。それは産業にしろ文化にしろスポーツにしろみな同じ。と
りわけ日本になじみのあるものと言えば、我々が日常的に接している数々のア
メリカが起源のスポーツがある。日本ではいったん流行ってしまえばその起源
などに注意を払う人などいないが、時代をさかのぼって見れば日本オリジナル
なんかはほとんどない。
  それはさておき、アメリカ人はともかく楽しいことが好きで、なんでも競争
にしてしまうし、逆に競技性とか勝敗の白黒がつかないものは面白くないと言
って目もくれない。これは想像だが、アメリカ人は勝ち負けに関係なく、競争
の中で人間があらがう姿が好きなのではないかと思う。勝負がつくまでのプロ
セスを見る側も参加する側も楽しみたいのではないかとも思う。それでなけれ
ば、使う道具で勝敗が分かれるスポーツが見向きもされない理由がつかない。
 そんな環境でアメリカのモータースポーツは発展してきた。たくさんの魅力
あるエンターテイメントに包囲されながら、少しでも消費者に目を向けてもら
おうと努力してきた。

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ボールを使わないメジャーリーグ
 ここに数字がある。フォーチュン誌が発表したプロスポーツの年間観客動員
数の推移をデケイド(10年間)で比較したものだ。数字は千人以下を四捨五入
したもので、前が1987年、後ろが1997年の合計だ。
  メジャーリーグベースボール:5201万人対6319万人(21.5%増)、NBA:
1207万人対2030万人(68.3%増)、NHL:1186万人対1764万人(48.8%増)、
NFL:1359万人対1461万人(7.5%増)。では今やアメリカで最も観客を集
めるNASCARストックカーレースの場合はどうだろう。これが実に2213万
人対6091万人で175.2%の増加なのだ。伸び率が群を抜いているだけでなく、
はるかに試合数の多いメジャーリーグベースボールに次ぐ観客を集めている。
しかもこの数字はいわゆるNCARのプロシリーズだけのものだから、その他
のNASCARの地方選手権レースを含めると間違いなくメジャーリーグベー
スボールを上回る。。

 NASCARを例にとればウィンストンカップの下にグランドナショナルシ
リーズがあり、その下にクラフトマントラックシリーズがある。底辺から見れ
ば、毎週行われるショートトラックのレースがある。ちょうどNBAを頂点に
大学や高校のバスケットリーグがあり、学外でのリーグや最近加わった女性の
プロバスケットリーグが華を添えるといったところだ。
 おわかりいただけたろうか。オーバルレースはアメリカではメジャースポー
ツの一角をなす巨大なスポーツであり、エンターテイメントビジネスなのだ。
 だから、あえてここでは言っておきたい。簡単にオーバルレースの面白さが
分かると思ったら大間違い。子供のころからどこの町にもあるショートトラッ
クのレースを見て育つからこそ理解できる部分もある。なにしろアメリカには
千を越すオーバルレース場がある。日本で行われるアメリカのトップカテゴリ
ーのレースを見る時、だから、自分は何もしらないんだという謙虚な気持ちで
いれば、感じるところがあるはずだ。そして機会があれば、自分でオーバルコ
ースを走ってみて面白いか面白くないか、ワクワクするかどうか確かめてみる
べきだ。

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オーバルレースのセオリー
 さて、オーバルレースを理論的に理解するための見方を披露しよう。
 日本やヨーロッパではロードレースが盛んだ。アメリカの専門家の間ではこ
れをトラクションレースと呼ぶ。文字通り加速のレースというわけだ。ロード
レースだってコーナリングするだろ、とは言わないでほしい。ロードレースの
勝つため重要な要素は、あくまでも加速であり、コーナリングはより速く加速
するための手続きのひとつでしかないという意味だ。
 だから結果的に加速性能が勝るクルマが絶対的に有利になる。すなわち、勝
つためにはクルマの性能を上げることが、費用はかかるが最も簡単な方法にな
る。ということは、資金に余裕のあるチームが必然的に有利になるという図式
が確立している。
 この傾向が強まっていくとドライバーは単にクルマを操作するだけの乗り手
になってしまい、勝つために必要な人的要素が減っていくことになる。日本の
ハイグリップタイヤと摩擦係数の高いレースコースに慣れたドライバーが、海
外の滑りやすいコンディションで苦労したという話は枚挙にいとまがない。
 もちろんドライバーに求められるテクニックも加速が唯一絶対のテーマ。コ
ーナーの後にひかえる直線を人より速く加速できるドライバーが有利になる。

 一方のオーバルレースのことをモメンタムレースと呼ぶ。英語で運動量や慣
性力、あるいは勢いといった意味の言葉だ。つまりオーバルレースでは勢いが
勝つために最も大事な要素だということだ。
 加速もなくてはならない要素ではあるが、速く走るためには勢いを殺さずに
ふたつあるターンをクリアすることの方が大切なのだ。
 NASCARのレース放映を見たことのある人なら記憶にあると思うのだが、
ドラフトで連なっていた集団の中の1台が突如として失速して抜かれてしまう
事がある。それも1台だけにではなく何台にも。決してマシントラブルで遅れ
たわけではないのにも関わらず、だ。何周か後にはまた元のペースで走ってい
るから、不思議な思いをした人もいるだろう。
 何が起きるたのか。端的に言えば、ドライバーの判断ミスだ。つまりドライ
バーが何かの理由でスロットルを抜いてしまったのだ。接触しそうになったと
か、アンダーステアが出たからとか。いずれにしろ危険を回避するために、う
まくいっていれば加速状態を続けられるところで『加速ができなかった』のだ。
厳密に言えば加速を鈍らせただけかもしれないが、勢いを殺いでしまったこと
になる。
 ところが、もし周囲のマシンが勢いを保ちながら、あるいは勢いを増しなが
らそのターンを抜けたとするならば、ストレートに入ってからの速度差は歴然
としている。
 オーバルの場合のストレートの加速はいわゆる中間加速(ある速度から加速
することだ)だから、その時の初速は高いほうが良いに決まっている。つまり
ストレートで負けたドライバーはターンでの走りに破綻があったというわけだ。
 ところがオーバルレースではいきおい集団で走行することが多い。というこ
とはあって2本、場合によっては1本しかないといわれるグルーブ(ロードコ
ースで言うレコードライン)を保つことも難しい場合が多い。
 ところがグルーブを外しては速く走れない。勢いを殺しては速く走れない。
無理をすればウォールに激突するか、スライドしてタイムをロスしてしまう。
こんな状況で多くのドライバーが100%の限界で走っているのだから、テク
ニックというよりもむしろ気持ちの揺れで勢いを殺いでしまう可能性は大いに
ある。
  まさに、身体的にも精神的にも強くなければ勝てない。それがオーバルレー
スだ。

 どうだろう。このあたりが分かるようになると、オーバルレースをドライバ
ーというアスリート同士が競い合う人的なスポーツに見えてはこないだろうか。
 その上、オーバルレースはごまかしがきかない宿命にある。ロードレースの
基本はトラクションだから、ラインを外しても突っ込みすぎてインに付けなく
いても、巧いドライバーなら最終的にコーナーの脱出で帳尻を合わせることが
できる。あるいはあるコーナーの失敗が次のコーナーに対しては有利に働き、
失敗がタイムロスとして致命的にならない場合が多い。
 むしろ、ロードコースの場合は速く走るためにコースのどこかに犠牲にしな
ければならない部分が必ずあるはずだ。要するに速さの求め方がいく通りかあ
ると言うことだ。また息を抜けるところもある。ストレートに出れば、どんな
ドライバーでもクルマ以上に速くは走れないに決まっている。
  しかしオーバルではそうはいかない。ロードレースでは一人ひとりのドライ
バーがより速く走るべき努力をした結果が勝敗につながるのだが、オーバルレ
ースでは速く走るのは当たり前。その上で駆け引きを含めより前を走るための
努力が求められる。
  スーパースピードウエイではドラフト(スリップストリーム)の使い方が勝
敗の鍵を握る。時速300Kmを超す速度での空気抵抗はとてつもなく大きい。
速く走るためには、矛盾するようだが競争相手の協力が絶対に必要だ。全くド
ラフトを使わせてくれなかったとしたらそれはドライバー連中から嫌われてい
る証拠で論外だが、使わせてくれたとしても親切でしてくれているわけではな
い。相手だって勝つためにドラフトを「使わせている」のだ。高速で引っ張れ
ば、引っ張られる方だけでなく引っ張る方の速度も上がる。いつ協力者が敵に
なるかも知れない。得体の知れない連中がそこら中にいる。オーバルレースは
その中で社会性と安全性を維持しながら速さを求めなければならない。自分だ
け孤立してレースを戦うわけにはいかないのだ。

  ロードレースとオーバルレースを例える方法はいくらでもあるが、それぞれ
が向かう方向を元に比較するならば、「ロードレースは速さを求めるレース」
で、「オーバルレースは完璧なドライビングを目指すレース」ということにな
るはずだ。

 さぁ、どうだろう。多少なりともオーバルレースとロードレースの成り立ち
に違いがあることを想像できただろうか。
 オーバルコースの走り方もロードコースのそれとは180度異なる。ぜひ一
度のオーバルコースで「完璧なドライビング」に挑戦する自分を想像してみて
ほしい。

=============  元原稿  ここまで  ============

  いつも疑問に思っていることがある。なぜ日本にはオーバルコースがないの
だと。 栃木県のツインリンクもてぎには世界に誇れるスーパースピードウエ
イがあるが、あれは立派すぎる。マイルアンドハーフのコースでスポーツドラ
イビングを楽しむのには少しばかり工夫が必要だ。
  だが、TMR以外にオーバルコースはない。筑波サーキット内にあるオート
レース選手養成用の500mトラックがあるが、これは一般には貸してくれな
い。日本は国土が狭いけれど、ショートトラックを作ることはそれほど難しい
ことではないと思う。5分の1マイル、1周が320mのオーバルコースなら
それほどの敷地はいらないはずだ。大きさは関係ない。どんな大きさのオーバ
ルコースであれ、肝心なのはどんなソフトをそこで提供するかだ。
  と、ないものねだりをしていても仕方がない。が、YRSオーバルスクール
を受けて楕円形の虜になった卒業生は多い。だから来年こそオーバルレースを
開催してみようと思う。最初はジムカーナ場にタイヤを並べただけのコースで、
4台が同時に走る程度のものしかできないかも知れない。しかしオーバルコー
スの走り方、オーバルレースの戦い方、そしてオーバルレースを見る楽しさを
お伝えする機会をぜひ作りたいと思っている。
  場所は物色中だが、もし最低でも100mX180mほどの長方形が取れる
場所を知っている方がおられたらぜひ教えてほしい。

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