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         Go−CircuitNo.275(08/01/09発行)

---------------------------------------------------- Taste of USA ----
●クルマを走らせるのは楽しい。思い通りに走らせるのはもっと楽しい●しか
しクルマがなかなか思うように動かない時がある●クルマの運転は簡単そうで
難しい●が、難しいことに感謝しなければならいない●難しいからこそうまく
できた時の喜びは大きい●うまくなろうとする過程がまた楽しい●うまくなろ
うとするから工夫する●今の時代、クルマを使い倒さなければもったいない。
||    Proud of Our Tenth Anniversary     ||
》》》Be Smarter, Drive Sater, and Drive Faster! You can do it!!《《《
         【  Yui Racing School Offers Serious Entertainment  】
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|1) YRSウエブサイトアップデート
|2) YRSフォトギャラリーについて
|3) タイヤの回る音を聞きながら  その5
|4) 参加申し込み受付中
|5) コーナーの向こうに ‐ 今は昔 1960(5)           トム ヨシダ

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|1) YRSウエブサイトアップデート

・YRSフォトギャラリー 2009YRSオーバルレース第3戦
http://www.avoc.com/9misc/info/page.php?p=photogallery
・YRSエンデューロ第3戦筑波 結果&全ラップ
http://www.avoc.com/3result/pt09/0725ye.shtml
・YRSスプリント第3戦筑波 結果&全ラップ
http://www.avoc.com/3result/pt09/0725ys.shtml

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|2) YRSフォトギャラリーについて

  ユイレーシングスクールではYRSスクールレース参加者を対象に、画像の
掲載、閲覧ができるフォトギャラリーを開設し既に多くの方に登録していただ
いています。
  しかしながらスクールレースに参加されたことのない方の登録申請がありま
す。も事実です。せっかくのフォトギャラリーなので一般に公開したいのです
が、現時点では諸般の事情からYRSスクールレースに参加した経験のある方
に限り登録を受け付けています。ご了承下さい。

・YRSフォトギャラリー
http://www.avoc.com/9misc/info/page.php?p=photogallery

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|3) タイヤの回る音を聞きながら  その5

 ユイレーシングスクールは独自のドライビングスクールやスクールレースを
主宰している一方、雑誌エンジン編集部の依頼でエンジンドライビングレッス
ンも運営している。エンジンドライビングレッスンも今年で7年目に入った息
の長いドライビングスクールだ。
 プログラムは以前の筑波サーキットドライビングスクールと同じで、午前中
にジムカーナ場を使い午後コース1000を走るというもの。ただ昨年まで筑波サ
ーキットドライビングスクールではジムカーナ場でオーバル走行しか行ってい
なかったが、エンジンドライビングレッスンではスレッシュホールドブレーキ
ングの練習を加えていた点が異なる。
 エンジンドライビングレッスンは年5回開催している。7年目の今年はエン
ジンドライビングレッスンの進化を目的に、5回のドライビングレッスンを通
じてカリキュラムを組みひとつずつのテーマを掘り下げることにした。既に3
回が終わっているが、その2回目の話。

 この時のテーマはロールコントロール。1回目のピッチングコントロールに
続き、4輪でしっかり路面をとらえながら走ることを意識してもらうことが目
的だ。
 ジムカーナ場ではいつものYRSオーバル筑波を走ってもらう前に8の字走
行をしてもらった。
 言うまでもなくオーバル走行だとひとつの方向にしかコーナリングしないが、
8の字走行になると異なる方向へのコーナリングを繰り返すことになる。つま
り、クルマから見るとロールの方向が常に同じオーバル走行とは違い、8の字
走行では1周につき2回、ロールの方向を正反対にしなければならないという
新たなテーマを持つことになる。
 初めはブレーキを使わずにイーブンスロットルで8の字を描いてもらった。
ブレーキを使わないから速度のコントロールはスロットルだけで行わなければ
ならない。自然とスロットルコントロールに慎重になる。少しでもオーバース
ピードになってアンダーステアが顔をのぞかせると、回っているそのコーナー
の軌跡が膨らむだけでなくその次に逆のコーナリングをする時の進入が難しく
なる。
 徐々にペースを上げていった参加者は、それでもかなりの速度で8の字を描
けるようになった。これはある意味当然のことで、イーブンスロットルにする
ことによってタイヤのグリップの全てをコーナリングに振り分けることができ
るから、クルマにピッチングさえ起こさなければむしろ簡単なのだ。
  そして、『ブレーキを使えない』というふだんの運転とことなり明確な制約
があるから慎重になる。どうしようかと迷っていても慎重さがある分、少しず
つペースを上げていくことができる。つまり運転に予断がないことが、かえっ
てクルマの動きをより感じようとするからに他ならない。
 慣れてきた頃を見計らって、コーナーとコーナーのつなぎの区間で加速して
もらうようにした。テーマはイーブンスロットルの時と同じパイロンにそって
できるだけ速い速度でコンスタントに走ることだ。
 物理的にはつなぎの区間で加速する分、1周にかかる時間は短くなるはずだ。
クルマによって旋回性能の限界は異なるかも知れないが、アンダーステアを出
さない範囲でイーブンスロットルで走った時の速さ、すなわちその時のラップ
タイムがボトムラインになる。コーナーのつなぎの区間もコーナリング部分も
どうころんでもその速さを保つことができるはず、なのだ。
 再び慎重にペースを上げてもらう。参加者は探りながらつなぎの区間でスロ
ットルを開けている。排気音からそうとわかる。向こうのコーナーを立ち上が
ってつなぎの区間にさしかかった時に、ノーズリフトすることでそれとわかる。
 短く。あるいはゆっくり。スロットルを開ける。イーブンスロットルで周回
していた時、少しでも速度が高すぎたりフロントの荷重が抜けていたりすると
切り替えした後のコーナーでパイロンから離れてしまうことを経験している。
クルマのバランスを崩すとインにつけない、つまりアンダーステアに陥ること
を身体が覚えている。だから、探りながらペースを上げていく。
 前提にあるのはあくまでも4輪への荷重の均等配分だ。それは、イーブンス
ロットルの時に限らず加速し減速した後でも同じ話だ。次第に反対周りのコー
ナーへたどりつく速度が速くなる。初めてオーバルコースを走る人も走ったこ
とのある人も、トレイルブレーキングで前にかけた荷重を抜かないようにター
ンインする。しかし。ペースを上げていくとターンインの手前で速度調整のた
めのブレーキングが必要になる。向こうのコーナーを回り終えたクルマがノー
ズをもたげ加速してくる。ターンイン手前からブレーキングを始めトレイルブ
レーキングを使いながらクルマの向きを変えていく。
  しかし、しかし。加速OK。ブレーキを使うのもOKと言った途端にほとん
どのクルマのコーナリング速度、つまりトレイルブレキーングから右足をスロ
ットルに移し変えた地点での速度が遅くなってしまった。ブレーキを使わずに
イーブンスロットルで8の字を描いていた時のコーナリング速度よりも遅いこ
とがはっきりと見て取れる。
  「やっぱり」、「そうなんだよね」。スタッフ同士の会話はもっぱら、制約
から解放された時の参加者の運転に対する意識に集中した。

  エンジンドライビングレッスンやYRSドライビングワークショップ筑波で
使うYRSオーバル筑波は32mx80mの大きさ。半径16mの半円を48
mの直線でつないだものだ。常設ではないのでその都度パイロンを並べてコー
スを作る。180度のコーナー部分には15度おきにパイロンを並べる。コー
ナーの開始地点、頂点、終了地点に緑色のパイロンを置き、他は赤色のパイロ
ンを置く。
  このYRSオーバル筑波の一部を変えて今回の8の字走行に使った。ふたつ
の半円をそれぞれ完成させると、直径32mの円が16m離れて隣り合わせに
なる。二つの円が向き合った部分のパイロンをそれぞれ7本ずつ取り除いて8
の字走行ができるようにした。つまり一部が欠けた240度の円が二つ並んで
いる形になる。円と円をつなぐ直線部分には、あえてパイロンを置かなかった。
ひとつの円を回り次の円に移るときに参加者がどんなラインを通るのかを確認
したかったからだ。パイロンがないからどこでも通ることができる代わりに、
『どこを通って』次の円に向かうか自分で決めなければならないイジワルな設
定だ。

  イーブンスロットルでの8の字走行に続いて積極的にスロットルを開けブレ
ーキをしっかり使っての走行に移ると、参加者の走りが変わった。まず毎周走
行ラインが変わる。次にコーナーの進入でアンダーステアが発生してパイロン
から離れる。極めつけは、コーナーの通過速度がイーブンスロットルで走った
時のしおれに比べて明らかに遅い。全てこのカリキュラムを考えた時に起きる
であろうと想定したことではあった。
  誤解してほしくないのは、だから、エンジンドライビングレッスンの参加者
の運転が下手だ、と言っているわけではないことだ。この項の目的は運転とい
うものを一般化することだから、イーブンスロットルでできたことが加速と減
速を取り入れるとできなくなる原因とその傾向を事実として伝えて、それで終
わりだ。
  さて、その原因を一言で言うならば、速度のコントロールが不十分だったと
いうことだ。
  ラインが一定しない。それは速く走ろうとするからコーナリングの後半でス
ロットルを、『どうしても』開けてしまいがちになる。結果、クルマにアンダ
ーステアが発生し240度の円を回り終えようとする時のラインがはらむこと
になる。スロットルを開ける位置が毎回異なることや、開ける時点での速度が
毎回異なるから脱出のラインがバラバラになる。
  さらに加速してコーナーを抜けるからロールがいつまでも収まらない。つま
りステアリングを戻せないまま次の円に向かうことになる。次の円ではクルマ
に逆向きのロールをしてもらわなければならないのに、だ。
  結果、手前のコーナリングが終了する地点が次のコーナーへの姿勢作りをし
なければならない地点に限りなく近づく。加速をしてきたから速度も遅くない。
次のコーナーに進入するためには減速も必要になる。しかし距離的に余裕がな
くなっているからかなりの減速を強いられ、さらにトレイルブレーキングでノ
ーズを回り込まそうとするから、アンダーステアが発生する可能性が高まる。
  実際。コーナリング速度が遅くなった理由はアンダーステアが発生したこと
によるものだ。ステアリングを切ってもクルマが曲がらない。だから更にステ
アリングを切り足す。結局ターンインの時には直径32mの円よりもはるかに
小さな円弧を描くことになる。コーナリングの半径が小さくなればコーナリン
グ速度が劇的に遅くなる。せっかく加速したのにも関わらずコーナリング速度
が低下してしまった原因がこれだ。
  8の字走行のタイムは光電管で計測しなかったが、手元の時計ではスロット
ルとブレーキを使った走行のほうがイーブンスロットルの時より遅かった例が
かなりあった。

  当日、1回目の走行を終わった人から質問を受けた。進入でアンダーステア
が消せない、という種類の質問がほとんどだった。特にハイパワーのクルマに
乗っている人達だった。
  それで、「スピードを乗せすぎなのではないですか?加速を途中でやめると
か、加速を鈍らせるとかしてみてはどうですか?」と答えた。2回目の走行の
時、ほとんどの人のクルマが向こうの円を抜けてこちらに近づき手前の円を回
り始めるまでのピッチングが少なくなった。もちろん、ラインもそろいコーナ
リング速度も遅くなかった。ピッチングをコントロールするのは1回目のエン
ジンドライビングレッスンのテーマだった。

  人間が考えるクルマを速く走らせる方法と、クルマが実際に速く走るために
必要な挙動の間にギャップが生じることは避けられない。人間には感情があり
道具であるクルマは無機質だからだ。しかし、そのギャップを埋める方法はあ
る。イーブンスロットルでできたことを基準にして、速さを求めた時の操作が
○なのか×なのかの検証を続けることだ。
  「クルマは決して思い通りに動かせない」という前提に立てば、少しでも思
い通りになれば○。そうならなければ×の判断ができる。人間が思い描く絶対
的な速さを受け入れてくれるほど、クルマという道具は寛容ではない。

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|4)  参加申し込み受付中
     現在、以下のカリキュラムの参加申し込みを受け付けています。
|   ◆ ◇ ◆  クルマの運転の楽しさを味わってみませんか?  ◆ ◇ ◆
| ※申し込み期日を過ぎても定員に達しない場合は引き続き受け付けを行いま
| す。枠がある場合は当日受け付けも行いますが電話でご連絡下さい。開催日
| 前3日を過ぎてからの申し込みは受講料を当日の受け付けでお支払い下さい。
| 振り込まれた方は振り込んだことを証明するものを受付で提示して下さい。
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|■ 8月29日(土) YRSエンジョイドライビング
  
  10周年を記念して始めたYRSエンジョイドライビングも今回で3回目。
4つのコースを設定し1日で全てを体験しながらクルマの運転に慣れることが
できるプログラムです。過去2回、参加者が1日で走った距離は50キロ以上。
4種類のコースでかなりの距離を、テーマを持って走ることにより「自分がや
りたいこと」を実行する時に「クルマが求める操作」がどういうものであるか
身体で覚えることができます。
  免許を取り立ての方からレースに参加しているベテランまでクルマの運転に
興味のある方はぜひ参加してみて下さい。16歳以上であれば運転免許がなく
ても保護者と同乗することを条件に参加を受け付けます。
  YRSエンジョイドライビングで使用するコースは以下の通りです。
・半径22mの真円定常円コース
・時速100キロからの急制動が可能なブレーキングコース
・20m間隔6本のスラロームコース
・44x104mのオーバル定常円コース

  ふだんお乗りのクルマなら、ワンボックスカーでも軽自動車でもSUVでも
参加することができます。ヘルメット、グローブの着用は必要ありませんが、
走行時には長袖長ズボンを着て下さい。  

・YRSエンジョイドライビング開催案内&申込みフォーム
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=yed#0

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|■ 9月5日(土) YRSオーバルスクールFSWロング

  前回のYRSオーバルスクールFSWロングも40x140mのオーバルコ
ースを走ってもらうことができませんでした。前日の雨で濡れた路面が完全に
乾かなかったからです。もちろんコースを44x104mに変更して思う存分
に走ってもらうことはできました。
  三度目の正直、になる今回。YRSとしても100キロ近い高速からタイヤ
のグリップを感じつつクルマの向きを変える技に朝鮮してほしいので、今から
テルテル坊主を作ってドライ路面で開催できるよう祈っています。
  YRSオーバルスクールはコーナリング練習に特化したプログラムです。タ
イヤのグリップをコーナリングだけに振り分けるイーブンスロットル走行から
トレイルブレーキングを使ったコーナリングに進みますから、サーキットを走
ったことのない方はもちろん、今までご自分のクルマを目いっぱい加速させた
ことのない方でも参加していただけます。また、クルマのパフォーマンスによ
って走行順を決めますのでワンボックスカーでもピックアップトラックでも参
加することができます。
  むずむずするようなコーナリングを味わってみたい方。本当に速いコーナリ
ングがどのようなものか体験してみたい方はぜひ参加してみて下さい。
  
・YRSオーバルスクールFSWロング開催案内&申込みフォーム
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=os&p=osf#0

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|■ 9月10日(木) YRSドライビングスクールFSW
| サーキットを安全に速く走ってみませんか?
| コース1000のラップタイムは安定していますか?
| クルマの性能を100%引き出してみませんか?

  ユイレーシングスクールでは、富士スピードウエイショートコースを走るた
めの「あんちょこ」を用意しました。受講される方に受付けでお渡しします。
座学では「あんちょこ」を元に車を動かす原理とショートコースの走り方を説
明します。座学終了後は走行時間までドライビングポジションの確認、質疑応
答の時間とします。昼食が終わったらコースを歩き走行ラインとクルマの姿勢
の作り方を説明します。
  午後からの走行ではリードフォロー、同情走行を行い、最後に単独で走りま
すから自然な流れでFSWショートコースの走り方を吸収することができます。
  サーキットを走る時、速く走ることが目的でも楽しみに走ることが目的でも、
やっていいこととやってはいけないことがあります。ユイレーシングスクール
ではクルマを走らせる時に必要な考え方を富士スピードウエイショートコース
をテーマにお教えします。

・YRSドライビングスクールFSW開催案内&申込みフォーム
http://www.avoc.com/1school/guide.php?c=ds&p=fds

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|5) コーナーの向こうに ‐ 今は昔 1960(5)           トム ヨシダ

 少年は、確かに自信のようなものを感じていた。それまでは学校にいても、
いや、家庭にいるときでも所在なげな感じが漠然としてあったのだが、ライト
プレーンを自分で作り出したころから少年の中で何かが変わり始めた。
 
 初めて作った飛行機を飛ばしたあの日。愛機は少年の思いとは裏腹に自由に
空を舞うことはなかった。
 圭ちゃんがやっていたように主翼をはずし、胴体を人差し指1本で支えた。
バランスがとれる位置を探すのだがうまくいかない。指の上から落ちそうにな
る機体を左手で支えながら、なんとか機首が安定する位置を探し当てた。
 その位置に鉛筆で印をつけ、少年は主翼の前縁から三分の一のところを印に
合わせて取り付けた。「これでいいはずなんだ」と自分に言い聞かせるのだが、
それでいいという保証はなかった。
 事実、既に何度もゴムを巻かずに滑空させていたのだが、機首から地面に突
っ込むようにダイブしたり、機首が上がったり下がったりを繰り返しながらピ
ッチングしたり。とても圭ちゃんの飛行機のように遠くへ滑るようには飛んで
いってはくれなかった。
  少年は何度も何度も主翼を取り付ける位置を調整した。機体を前後左右から
ながめ主翼や水平尾翼がねじれていないのは確認していた。飛行機が輪を描い
て飛ぶように垂直尾翼だけは少しひねっておいた。
  手を離れた機体がスゥーと、何かにひきつけられるように滑空する。どのく
らい時間が経ったのだろう。品鶴線沿いの空き地はそろそろ夕暮れを迎えよう
としていた。「最後に1回だけ」。そう思いながらプロペラを回してゴムを巻
き上げる。切れにくくするためとゴムの戻りを良くするために、圭ちゃんがや
っていたようにゴムにルブリカントをたっぷり塗ってある。
  キットに入っていたゴムはそれほど長くなかった。自分で作った飛行機がど
のくらい飛ぶのかはわからなかったが、少年は圭ちゃんに頼んで倍の長さのゴ
ムを買っていた。そして、キットには入っていなかったが圭ちゃんと同じよう
にするためS管と呼ばれるゴムを束ねて機体に取り付ける小さな部品も買った。
  ダラーンとたるんでいたゴムがプロペラを回すほどに短くなる。まだワイン
ダーを持っていなかったので手でプロペラを回して巻き上げるしかなかった。
ゴムが胴体と平行になるにつれプロペラが重たくなってきた。油断すると回り
だしてしまいそうなプロペラが人差し指に食い込む。かなり痛かった。できる
だけプロペラの根元の分厚いところに指をあてるようにした。重い。ゴムが胴
体と完全に平行になるころには中指をそえて2本の指で回すしかなかった。
  右手の親指と人差し指で胴体をはさみ左手の親指と人差し指でプロペラをつ
まむように胴体を持つ。両手を高く掲げ深呼吸。両手をそぉっと押し出すよう
に機体を空中に放つ。いっときまっすぐに進んだ機体は、少し高度を上げると
ゆっくりと左回りに旋回しながら空に浮かび続けた。
  それほど長い時間ではなかったが、自分の作った飛行機が音もなく飛んでい
るのを目の当たりにした少年は笑っていた。嬉しくてしかたがなかった。
  その時の少年に自覚はなかった。しかし飛行機が手を離れた瞬間。それは、
間違いなく少年が未来に向けて羽ばたいた瞬間でもあった。

  少年はしばらくの間ライトプレーン作りに夢中だった。「もう買い食いはし
ないから」と両親を説得して小遣いをせびりワインダーも買った。圭ちゃんが
やっていたように主翼の端に最も近いリブから先の紙をはがし三澤模型で買っ
た青い色つきの紙に換えた。A級ライトプレーンのキットには入っていなかっ
たが、動力のゴムが伸びきったあとで止まったプロペラが空気抵抗になるのを
防ぐための空転装置も買って取り付けた。
  少年は足げく三澤模型に通った。ライトプレーンに夢中になっている少年に
接する圭ちゃんの目は優しかった。いろいろなことを少年は教わった。模型飛
行機を飛ばすということを越えていろいろなことを教わったような気がしてい
た。
  荒川の河川敷で開催された東京都のライトプレーン大会に参加したこともあ
る。A級ながら高翼のライトプレーンも作った。やがて少年のライトプレーン
は1分ほど空に浮かぶようにまで成長した。

  その頃。同じように三澤模型に通う中学生に出会う。後に劇的な再会を果た
すことになる解良喜久雄さんだ。偶然店先で会った時、圭ちゃんが紹介してく
れたのだ。
  解良さんは少年とは違いUコンをやっていた。模型用とは言え本格的なエン
ジンを搭載した機体を2本のワイヤーでコントロールする模型飛行機だ。三澤
模型の店内にも何機か飾ってあったから、少年はその存在は知っていた。が、
解良さんに会うまではUコンが自分の世界のものだと思うことができなかった。
  お父さんが宮大工だという解良さんが作った飛行機はそれはそれはきれいで、
翼に貼られた紙は少しのしわもなく、ドープを塗られて輝いていた。それは、
本職の圭ちゃんが見とれるほどのできばいだった。「大人じゃないのにこんな
にきれいに作れるんだ」。少年は縁がないものと思っていたUコンに少しだけ
近づいたような気がしていた。
  ある日のこと。親切な解良さんと圭ちゃんがUコンを飛ばすところを見せて
くれた。
  金色に光った燃料タンクにグロー燃料を入れ、プラグとエンジン本体にバッ
テリーからコードをつなぎ、ニードルバルブをいったん全部閉めてから何回転
か戻し、圭ちゃんがプロペラを回し始めた。インテークを左手の人差し指でふ
さぎ右手の親指と人差し指の間にプロペラをはさみでゆっくりと回す。燃料を
吸い込んでいるのだ。以前教わったことを思い出しながら見ていると、今度は
左手で胴体を持ち右手の人差し指と中指をそろえてプロペラにあてがい、たた
きつけるように回し始めた。解良さんはハンドル持って遠くに立っている。
  パッ、パッ、ピーン。突然エンジンが回りだした。圭ちゃんは何事もなかっ
たように、回っているプロペラに触れないように右手を伸ばしてプラグのコー
ドを外した。次に圭ちゃんがニードルバルブを回すとエンジンが一段と甲高い
音で回りだした。
  少年はわけもわからず興奮していた。
  自動車やバスにエンジンというものがついていることは知識としては知って
いた。エンジンが回転して大きな乗り物を動かしていることも知っていた。し
かし、模型用のエンヤ15という小さなエンジンであるにせよ本物のエンジン
を見るのもエンジンが発する甲高い音を聞くのも初めてだった。少年はぞくぞ
くするような感じを覚えていた。
  ピー。エンジンの音はさらに高くなり、もはや回っているプロペラは見えな
い。機体の前にまあるい薄茶色の膜がかかっているようだ。
  圭ちゃんは期待を両手で持ち直した。左手で胴体。右手で主翼の前縁を支え
地面に置いた。砂埃が舞った。圭ちゃんが解良さんを見る。解良さんは左手で
合図した。圭ちゃんの手から離れた機体は50センチも進まないうちに尾輪を
浮かしすごいスピードで走り出した。
  と思った次の瞬間。機体がフワッと空中に浮かんだ。けっこうなスピードが
でているのだが、その離陸自体は優雅なものだった。
  解良さんの機体はスタント機で大きな翼を備えていた。飛行機は解良さんを
中心に大きな円を描いて飛んでいる。地上から3mぐらいのところだろうか。
飛行機は少しだけ高度を上げたり下げたりしながら飛び続けていた。じっと見
守る圭ちゃんの横に立ち、少年は飛行機を目で追いながら同じような周期で大
きくなったり小さくなったりするエンジンの音を聞いていた。
  それは心地よい音だった。空気が振動して伝わってくるような、それでいて
すごく澄んでいて。楽器の音色とも違う。それまでの少年の生活の中にはなか
った種類の音だった。ハンドルを操り解良さんが背面飛行をしたり8の字飛行
をするのを目で追いかけながら、少年はその音に囚われていた。
  少年の中に感動があった。エンジンの音をじかに聞いたことによって自分が
大きくなったような気がした。少年の世界は確実に広がっていた。
  
  ある日のこと。いつものように三澤模型に遊びに行くと圭ちゃんが、「本物
の飛行機を見に行くかい?」と聞いてきた。航空記念日にアメリカ軍の立川飛
行場が公開されるという。「模型飛行機の大会もあるし解良君も行くよ」。少
年は迷わずに「うん」と答えた。

                               <続く>

・クォーターミヂェット 今は昔
http://content.cdlib.org/ark:/13030/kt8g5023qs/
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