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Go ★ Circuits No.123 (02/22/02発行)

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【 123号の目次 】

◎ YRSウェブサイト更新

● 筑波エンデューロ パッセンジャーライド搭乗者募集

△ 筑波エンデューロ 参加ドライバー募集

▲ ドライビングスクール体験記 諸口秀一

☆ ハウツゥスタート 「TDW卒業生の声」から

★ コーナーの向こうに 第六話 青春の旗 第5回 トム ヨシダ

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◎ YRSウェブサイト更新

・歴代ラップタイム
2000年11月3日の第1回筑波タイムトライアルから今年2月19日の筑
波ドライビングワークショッププラスまでにユイレーシングスクールに参加さ
れた方のラップタイムを掲載してあります。複数回参加された方もいらっしゃ
るのでベストラップタイムだけを抽出した『The Best』、今までのラッ
プタイムの向上がひとめでわかる『名前順ソート』も掲載してあります。

その他、改造度別のラップタイムや全参加者のタイムを速い順に並べた『Th
e History』も掲載しました。

http://www.avoc.com/ > Lap Time of Record > 筑波コース1K

・筑波ドライビングワークショップ卒業生アンケート集計
昨年まで行っていたTDW卒業生に対して行ったアンケートの集計結果を掲載
してあります。句読点の変更などはありますが、回答いただいた全ての文章を
そのまま掲載しました。否定的な意見も肯定的な意見もあります。TDWの参
加を考えている方にはその実態がおわかりいただけます。

http://www.avoc.com/ > Report > ワークショップ

※昨年までのアンケート回答集計は順じフォーマットを統一して掲載していき
ます。

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● 筑波エンデューロ パッセンジャーライド搭乗者募集

3月2日に行われる2002年筑波エンデューロ第1戦では、昨年同様にパッ
センジャーライドを行う予定です。ただし参加台数によっては実施できない場
合もありますので、詳細は次週発行のメールマガジン紙上で発表します。

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△ 筑波エンデューロ 参加ドライバー募集

メールマガジンで呼びかけた筑波エンデューロの参加ドライバー募集には多く
の問い合わせをいただきました。調整の結果、先着順に4名の方に走っていた
だくことになりました。従ってYRSのスタッフは搭乗しません。今回参加さ
れる全員がTDW卒業生ですが、お互いの面識はありません。現在メールを活
用して少しでもいい成績を残すための秘策を練っているようです。

今回乗っていただくことのできなかった方は申し訳ありませんでした。またの
機会に応募して下さい。

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▲ ドライビングスクール体験記 諸口秀一

残念ながら既に廃止されてしまいましたが、私が以前受講したドライビングス
クールの体験を紹介します。

スクールのメニューは、以下のような感じでした。
1 座学(15分)
2 ドライビング・ポジションの確認(15分)
3 ウォーミング・アップ(1回)
4 ロールオーバーシュミレーション(1回)
5 昼食
6 定常円(2回)
7 ブレ-キング(5回)
8 コーナーリング(6回)

1)座学は教官の紹介とスクールの目的、スケジュールの確認といった事務的
な内容がほとんどで、特に知識になるような内容はありませんでした。

2)ドライビング・ポジションの確認はまず受講生が普段のポジションで座っ
てみます。それを教官がチェックし矯正します。私は普段からかなり前の方に
座っているため訂正されませんでしたが、他の受講生は訂正後のポジションは
かなり窮屈だと言っていました。ハンドルの持ち方は9時15分の位置を持って
実習中はその位置から持ち替えないで運転することを強制されます。

教官によると9時15分の位置から持ち替えずに180度ハンドルを回せれば、
ほとんどの道は走れるとのことでした。私は今でもこれを実践しています。最
初は交差点の右折さえも持ち替えずに曲がることが出来なかったのですが、コ
ツを憶えると左折でも持ち替えずに曲がれるようになります。(100%では
ありませんが)また、クルマが停止した状態でパニックブレーキの練習もしま
す。とにかく、出来るだけ速く、腰が浮いてしまうくらい最後まで強く踏むこ
とが肝心なのだそうです。ブレーキペダルを破壊するつもりで思いっきり踏ん
でみましたが、さすがにペダルは丈夫でした。

3)ウォーミングアップでは実際にクルマを運転します。クルマは、自分のク
ルマではなくスクールが用意したクルマを使います。最初に高速道路の進入と
同じような感じで外周路に出て、100km/hを維持して走ります。途中に15m
くらいの間隔で4本のパイロンがあり、それを40km/hまで減速しスラロームを
行います。

その後100km/hまで加速し、コーナー(200Rくらいかなぁ)手前で60km
/hまで減速、一定の速度でコーナーを曲がります。直線に出たら再び100km
/hまで加速し2回レーンチェンジを行い、最後にフルブレーキングで停止しま
す。まず教官のお手本をみて、その後同じことを助手席に教官、後部座席に他
の受講生2人を乗せて実際に行います。特に難しいことは無いのですが、初め
てのCTV6速ATで教官から指示された速度をキープするのが大変でした。
ウォーミングアップのめだまは最後のフルブレ−キングなのですが、何も考え
ずに思いっきりブレーキペダルを踏むだけだったので何の技術も必要ありませ
ん。

4)ロールオーバーシュミレーションとは、車の横転を体験すると言う物です
。360度回転するように作られたクルマ(機械?)に乗りこみ、じょじょに
逆さまにされます。そこでシートベルトがいかに有効かと言うことを学びます
。標準の3点式のシートベルトだったのですが、180度回転してもシートベ
ルトをちゃんとしていれば頭が天井にぶつかることは有りませんでした。

今回は人数が多かったため、180度回転した状態からの脱出は、教官の見本
のみでした。逆さまになってシートベルトで支えられている時にむやみにシー
トベルトを外してしまうと、一気に全体重がかかるため、たとえ手で支えてい
たとしても支えきれずに首等を痛めてしまう可能性があるそうです。どうすれ
ばいいか?というと、足をダッシュボードの内側(ハンドルの下。逆さまなの
で上?)にして力を入れ、片手を天井について、足と手の両方で、身体が一気
に落ちないように支えるのがコツなのだそうです。

5)午前中のスクールはここまでです。用意されたお弁当をグループ毎に集ま
って食べます。午前中の内容では、あまり話題もなく、午後への期待感とお腹
を膨らませます。

6)定常円を使って、コーナーリング中にアクセルを急に踏みこんだ時、駆動
方式の違いによりどのような結果になるかを体験します。

雪道相当の低μ路を使い、直径20m位の円を回ります。まずはFF。最初に安
定走行として10km/hで円を回ります。円の上をきれいに回って行けます。次に
ハンドルはそのままにして少しアクセルを開けます。徐々に外にはらんで行き
ます。そのままアクセルを少し戻します。また内側に戻ってきます。

今度は、アクセルを一気に全開します。まっすぐ外に飛び出して行きます。定
常円に戻り、同じようにアクセル全開にしてさらにハンドルを切り込んで行き
ます。やっぱり、まっすぐ外に飛び出します。次はアクセルを全開にした時、
ハンドルが軽くなるのでそれを感じたらフルブレーキングをします。ブレーキ
を踏めば、ほとんどその場で停止することが出来ます。

次にFR。アクセル全開以外はFFと同じ挙動になります。アクセルを全開に
したときは、リアが外にブレークして巻き込むようにその場でスピンします。
リアがブレークしたら、すぐにフルブレーキングするとちゃんと止まれます。
まあ、当たり前のことですね。

7)ウォータバリアという噴水が飛び出すところでフルブレ-キングの体験で
す。

まず濡れた路面・ABSなしで60Km/hからのフルブレーキング。(噴水1つ)
これはまず止まれないらしい。(教官は止まれるらしいが・・・)私も、見事
に噴水に突っ込みました。教官との差は初期制動力の差らしいです。

外から見ていると教官はブレーキ踏んだとたんに全輪ともロックしていました
が、受講生は踏んでから5m位してからロックしてました。タイヤがロックし
ている時の減速力はタイヤ性能の80%の制動力なので、下手にコントロールす
るよりはロックさせてしまったほうが普通の人は早く止まれるらしいです。

次は、濡れた路面・ABSなしで60km/hからのフルブレーキング&ハンドルで
よける。(噴水1つ)タイヤがロックしている状態では車はハンドル切っても
曲がれません。ですからこれも噴水に突っ込みます。濡れた路面・ABSあり
で60km/hからのフルブレーキング&ハンドルでよける。(噴水1つ)これはち
ゃんとよけられました。ABSさんありがとう!って感じです。低μ路・AB
Sありで50km/hからのフルブレーキング&ハンドルでよける。(噴水2つ)こ
れは2つともよけられるのが正解。うまい人は2つ目の手前で停止できるらし
いです。

私はなんと2つとも真中から突っ込んでしまいました。どうやら速度が50km/h
以上出ていたみたいです。速度を言われてた通りに合わせるのがすごく難しい
。ATに乗りなれていなかった私はどうしてもアクセルを戻すタイミングが遅
くなってしまうみたいです。ABS付きなのにハンドル切ってもほとんどまっ
すぐ突っ込んでしまいました。ABSにも限界があるということです。低μ路
・ABSありで60km/hからのフルブレーキング&ハンドルでよける。(噴水2
つ)これはよけられないのが正常です。しかし50km/hの時よけられなかった私
は、もう一度50km/hで挑戦です。(60km/hは、もう体験済みということで・・
・)結果は、一つ目の噴水をよけ、2つ目の噴水の手前で停止できました。こ
こでは10km/hの速度差でブレーキの制動が全然違ってしまうことを実感しまし
た。また、初期制動力の差で、止まる位置が簡単に5m以上変わってしまうこ
とも分かりました。

8)コーナーリングでは、濡れた20Rのコーナーを使います。まずは、安定し
て曲がれる30km/hと35km/hで5km/hの速度差と右回り、左回りの体感の違いを
体験します。アクセル一定のままコーナーに進入し、ハンドルはコーナーリン
グ中は固定します。右周りと左回りでは、右回りの方が格段に曲がりやすいと
感じました。待ってる間”右回りの方が、視界がいいから回りやすい”と話し
てたら、教官に”それがわかっていればもう教官いらないです”と言われまし
た。

さらに限界以上の速度で進入してみます。まずは40km/h。これは限界をほんの
少し超えた速度です。この速度ではアンダーステアが出るため外にはらんで行
きます。でも、ステアリングを切り足せば何とか曲がって行ける速度です。切
り足したことで曲がれたのはグリップに余裕があったのではなく、前輪の抵抗
が増え車速が落ちたせいだと思います。最後に45km/h。これは限界を超えた速
度です。これではいくらハンドルを切り足してもコーナーの外に出てしまいま
す。コーナーの外に出てしまった(しまいそうな)時は、やはりフルブレーキ
ングで停止します。

これで1日のスケジュールは全て終わりです。このスクールは普通では起こら
ない(起こしてはいけない)車の挙動を実際に体験し理解する。そして、それ
らを起こさないような運転するように心掛ける。また、万一起きてしまったと
きに、被害を最小限に抑える方法(フルブレーキングですね)を習得するのが
目的でした。

このプログラムは、運転技術の向上にはほとんど貢献しませんでした。このス
クール受講後に自分の運転が変わったか?というと答えはNOです。(ハンド
ルの持ち方は変わりましたが・・・)

一度安全な場所でクルマの色々な挙動を体験するのはそれなりに価値はありま
すが、2回目を受講する気にはなりません。意図的にクルマの限界を超える操
作をすることは比較的簡単に出来てしまうため、クルマの本来の性能を引き出
す為にするべきことがこの体験では見えて来なかったのです。

一気に限界を超えてしまっては、クルマ本来の限界を知ることは出来ないとい
うことが判った1日でもありました。

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編集部注;諸口秀一はユイレーシングスクールのインストラクターです。

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☆ ハウツゥスタート 「TDW卒業生の声」から

一昨年の冬。筑波サーキットからジムカーナ場とコース1Kを使って初心者か
らベテランまで対応できる『安全に走る』ためのドライビングスクールを開催
してほしいとの依頼があるました。その目標を達成するために、ユイレーシン
グスクールの経験を生かして作ったのが現在の筑波ドライビングワークショッ
プのカリキュラムです。

筑波ドライビングワークショップにはいろいろな方が参加されます。様々なク
ルマが参加します。参加して感じられたことも多種多様です。日本のスポーツ
ドライビングが置かれている物理的状況からすると、YRSとしては筑波ドラ
イビングワークショップが最善ではないにしろ基本的な必要条件を満たしたド
ライビングスクールだと思っています。これからサーキットを走ろうと考えて
いる方、あるいは既に走ってはいるがいまひとつピンとくるものがないと感じ
ている方にはお勧めのドライビングスクールです。

以下は卒業生にお送りしたアンケートの質問と回答の抜粋です。読んでいただ
ければTDWの様子がわかると思います。

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1)筑波サーキットドライビングワークショップを受講した理由を書いて下さ
い。

・ネットサーフィンしていて偶然HPを見つけました。HPの内容をみて、初
心者の自分が車の動きを勉強させてもらう場として最高だと思い、受講に踏み
切りました。
・筑波サーキットのファミリーライセンスを取得しTC1000を2回ほど走
ったが、頑張った割りにタイムが伸びないしタイムの割りにタイヤがぼろぼろ
。自分の走り方が極端に間違っているのではないかと感じていた。ホームペー
ジで理にかなった運転ということを学べる場があることを知りしかもクルマは
ノーマルほど良いというので参加させていただいた。
・1ヶ月程前に、誘われて訳も分からず筑波2000を走りました。サーキッ
トはむろんはじめてでした。主催者は初心者の多い集まりだと言ったのに、ノ
ーマル車は私だけ。レース仕様やハードチューンしたクルマばかりの中で一緒
に走るハメになり、恐ろしい思いをしました。初心者はハザードをつけてコー
スの右側をと言われたので、邪魔にならないようにひたすら右側ばかりを走り
ました。前方よりもミラーばかり見ていました。速さが全然違いました。ただ
恐いのと同時に、サーキット走行の魅力、自分の運転のいい加減さを知ること
ができました。自分が高速でのブレーキング、コーナリングの仕方を知らない
こと、ヒール&トゥができなければ速く走ることなどできないことを痛感しま
した。サーキット初体験がサーキット走行やスポーツ・ドライビングが、ふだ
んの運転を含めて運転技術そのものの向上に役立つこと、より安全な運転を可
能にしてくれることを知りました。また、サーキット走行は単純に面白かった
。恐いけど爽快でした。同時に、今度はきちんとサーキットを走りたいと思い
ました。コース2000では、右側しか走れなかったので。そして、高速での
ブレーキング、コーナリングの仕方を、できれば安全にきちんと学びたい、ま
た上手な運転とはどういうものか、自分も上手に運転したいと思いました。以
上が受講の理由です。
・このスクールで学ぶことが(本当の)上達へとつながりそうだと思ったため。
・特にオーバルコースを走りこんでみたかったから。
・仲間が受講して一度は受けておいた方がいいと言われたこと.

3)「良かった」と答えた方はどんなところが良かったですか?

・トムさん、大石さんをはじめ、スタッフの方々が、とても信頼できる方々だ
と感じました。これが何よりも第一によかったところです。また、ユイレーシ
ングスクールのドライビング理論は、自分の理解が十分ではないながらたいへ
ん共感できるものです。特に、チューニングについては、自分ではチューニン
グするほど自分の車を乗りこなしていないと感じていて、一方周囲のクルマ好
きからはマフラーやブレーキ・パッドの交換をしきりにすすめられたりして、
迷っていました。正直なところクルマ好きの人たちは、どこまで本当なのかわ
からないことを、さほど確かな論拠もなく、さも当然のように語る人が多いよ
うに思います。こちらはよく知らないのでおとなしく聞いていますが、あまり
信用する気になれません。その点、まずしっかりとノーマル車を乗りこなすこ
と、というお話を聞いてすっきりしました。しばらくノーマルで走って、ノー
マルの限界を自分の頭と身体で理解したいと思います。またなかなか質問でき
ませんでしたが、2、3の質問にきちんと答えていただきました。
・はじめてサーキットを走りました。走り方にはそれなりの理屈があることは
想像していたので、朝の講義はまさに目から鱗が剥がれる思いでした。漫然と
走るのではなく理論形成があればそれに則った方が合理的です。そんな思いが
先ず自分の中にしっかりと根付いたので、あとは体と感覚が慣れれば、少しは
満足できた走りができるかと思いました。
・全く車の操縦について無知であったことが分かりました。トランジション、
良い言葉ですが実践は難しいです。
・疑問点に答えてもらえて、(頭の中だけは)疑問が晴れたこと。
・理論→定常円旋回→走行と行うことで頭、体で理解し実践できたところ。
・今まで悩んでいた立ち上がりの加速での遅れを解決する手がかりをつかめた
事。
・サーキット走行や広場での思い切った走行が初めてだったので、その機会が
得られた事自体が良かったです。定常円旋回においては、荷重移動の練習を繰
り返し行える点と、思い切ったアクションでの失敗を許容してくれる練習場の
安全性が良かったと思います。サーキット走行においては、ベテランの同乗走
行体験やアドバイスが良かったと思います。
・座学の内容が非常に理論的

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尚、アンケート回答の全文はウェブサイトに掲載してあります。

・筑波ドライビングワークショップ卒業生アンケート回答集計:
http://www.avoc.com/ > Report > ワークショップ

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★ コーナーの向こうに 第六話 青春の旗 第5回 トム ヨシダ


レースオフィシャル。自動車レースをコントロールする人達も、また特殊な存
在だと思い込んでいたのだが、そうではなかった。最低限の知識は必要だがそ
の気さえあればレースカーがなくても自動車レースに参加することが可能だと
わかった。

「レースに出たい!」と言ったとたんに否定的な意見が戻ってくる時代だった
。「そんなの無理に決まってんジャン。」「レースって危ないんだろ。」「レ
ースってすごくお金がかかるんでしょう?」

レースに出たいという思いをつのらせるほどに寡黙にならざるをえない。そん
な時代だった。レースというより『クルマを使った遊び』など尋常の世界では
ないと思われていた。「レースってかっこいいよネ。」そんな会話が自動車レ
ースとふつうの生活を分けていた。

名古屋レーシングクラブの役員に執拗に食い下がる。「オフィシャルってどん
なことをやるんですか?」「どんな資格が必要なんですか?」「僕にでもでき
ますか?」

役員は丁寧に教えてくれる。レースオフィシャル。正式には競技審判員のライ
センスにはコース、技術、計時の3種類があってどれもレースの進行には欠か
せない役割であること。それぞれのライセンスには3級から1級まであって経
験を積めば上級ライセンスを取得できてより重要なポストに就けること。など
など。

迷わずに決める。技術も計時もそれなりに大切なのだろうが、レースの世界に
身を置くからにはレースと一体になりたい。マシンの走るそばでレースを走る
ドライバーとコミュニケーションを取るのが役務のコースオフィシャルに迷わ
ずに決める。

役員の好意で、ライセンスを取る前に実際のコースオフィシャルを体験させて
もらえることになる。約束の日。朝暗いうちに家を出て電車を乗り継いで白子
の駅に向かう。鈴鹿サーキットの最寄駅、近鉄の白子駅にも特急は止まらない
時代だった。モータースポーツはふつうの生活には織り込まれていなかった。


集合時間に間に合わない。懐には痛いがタクシーに乗る。「へぇー、ホンダタ
クシー。鈴鹿サーキットだからなんだ。」

駆け寄ると既に大勢のコースオフィシャルとおぼしき人が集まっている。「ハ
イ、○○君、今日は×番に入ってね。××君は○番ね。」「了解。今日は□□
君と一緒か。」コースオフィシャルの配置を説明していた鈴木コース副委員長
がこちらを見る。「ハイ、吉田君ね。23番ポストに行ってくれる?」

歩き出すコースオフィシャルに従いマイクロバスに向かう。すし詰めの状態で
動き出したマイクロバスは1コーナーにある4番ポストから順にコースオフィ
シャルを降ろしていく。3コーナー立ちあがりの5番。逆バンク手前の8番。
ヘアピンの15番。スプーン出口の22番。すでに載っている人数は少ない。バ
ックストレートの中間、スプーンカーブと130Rのちょうど真中あたりでマ
イクロバスが止まる。「ハイ、23番。」

そこにはポストがない!コースに点在した公衆電話の箱を流用したポストがな
い。電話もない。そこにひとり。寒い。とりあえず副委員長に言われたように
コースを確認する。箒を持ってあるく。それにしても守備範囲が広い。

コースを歩くといろいろなものが落ちているのに気付く。うっすらと砂が出て
いるのは当然として、折れた枝が落ちている。石ころがある。黒色をしたさや
えんどうのようなものが落ちている。後になってそれがレーシングタイヤから
削れたトレッドゴムの塊だと知る。

それにしても寒い。時期は3月上旬。雪が降ってもおかしくない天気。今日の
レースは全日本選手権レース。日産とトヨタがサニーとカローラで熾烈な争い
を演じているのは雑誌を読んで知っている。『隣のクルマが小さくみえま〜す
』のCMで火がついたサニー対カローラの代理戦争。

「オーイ。」と声がする。するほうを見上げると、コースの反対側の高くなっ
たところにポストがある。ヘアピンを立ちあがり高速の右コーナーに入る手前
の16番ポスト。「予選開始!」

「いよいよ来るな。」姿は見えないがどこかで野太い排気音が上下するのが聞
こえる。「どこを走っているんだろう。S字かな?」

ガーンッという音が一瞬乾いた音に変わる。それが立体交差の下をマシンが通
った時の音だと気付くまでにそれほどの時間はかからなかった。マシンがヘア
ピンへ向かったかどうかがわかるようになった。

遠くのスプーンカーブ立ちあがり。23番ポストから見ると下ってまた上った頂
上にある。その先はコース北側の高い土手にさえぎられて見えない。遠くで連
続して音がする。直後。コースの外側に飛び出すのではないかという勢いでマ
シンが現れる。マシンは坂を下りながら音を変える。シフトアップしている。
続いて次のマシンが姿を見せる。

坂を下りきったマシンは登りにさしかかり、しばらくすると草むらに立ってい
るだけの自分の目の前をトンデモナイスピードで駆け抜ける。「速いな〜ぁ。
5速全開だもんな〜ぁ。あんな速度で走っている時ってどんな気持ちなのかな
〜ぁ。」役務中に余計なことを考えるな、とばかりに次から次へとマシンが駆
け抜ける。

「オイルを吹いている車がないか注意して下さい。」鈴木副委員長の言葉を忘
れたわけではないが、この速度では確認のしようがない。「予選が終わったら
コースを歩いてみよう。」

間近を通りぬけるクルマがこれほどの疾風を巻き起こすことを知らなかった。
寒い。スプーンから吹いてくる風に加えて巻き起こる疾風。あんなちっぽけな
マシンでも、スピードが速くなればすごい量の空気を押しのけて走っているこ
とを後で学ぶ。

予選は何事もなく終わる。他のポストでは何かあったようだが、裏のストレー
トでは何もなかった。初めてのコースオフィシャルを23番につかせた理由に納
得する。

コースを歩く。地面を触ってみる。冷たい。左右のどちらを見ても延々と続く
コース。とにかく立体交差の上までは歩く。どうやら130Rに向かって左側
をどのマシンも走るようだ。コースの色が微妙に違う。そのラインに何か落ち
ていないかあるきながら探す。

短いインターバルを利用して木の枝を編んでついたてを作る。枠の間に草を突
っ込む。それが何の役にも立たないことを知りながら。

遠くで「ファンッ」という音。次の予選が始まる。16番ポストからは「オーイ
。」の声。次の発見はなんだろう。胸がドキドキする。


=== 続く ===

※ 文中の搭乗人物の敬称は略してあります。

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